研究課題/領域番号 |
26870061
|
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
牲川 波都季 関西学院大学, 総合政策学部, 准教授 (30339733)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 異質性の受容 / 複言語・複文化主義 / グリーンツーリズム / 外国人との共生 / 農業従事者の移動経験 |
研究実績の概要 |
2016年度には,「調査I GT運営農家を対象とした他者受容の思想群と個人史についての聞き取り調査」として,2014年度に実施した第1回の聞き取り調査の考察を踏まえ,それを補足するための第2回の聞き取り調査を実施した。 2014年度の聞き取り調査では,グリーン・ツーリズム(以下,GT)運営農家の県外・海外への移動経験について,事実の概要を把握したにとどまり,経験の詳細や認識を確認するには至らなかった。また,第1回目の調査では,男性に比べ女性は県外・海外への移動経験が圧倒的に少ないこと,婚姻による移動もごく近距離であったこと,にもかかわらず,他者受容に対する関心や許容度が非常に高いことが明らかとなった。また,本研究は,こうした異質な他者の受入に積極的な地域を一事例とすることで,将来の日本で広く起こりうる,過疎地域での外国人との共生のあり方に対し,示唆を得ることも目的としている。しかし,第1回目の聞き取り調査を通し,GTは,基本的には1日から数日間の短期の他者受入事業であり,長期間の外国人との共生に示唆的な事例研究となりうるかという新たな課題が浮上した。 したがって2016年度には,(1)移動経験の詳細と,(2)大きな移動がなかった女性が,なぜ他者を自宅に招くGTに積極的なのか,(3)長期の外国人との共生についてはどのような認識をもつのか,という課題をもって,第2回の聞き取り調査を実施した。その結果については,現在,すべての文字化を終了し,考察に着手したところである。(1)(2)は,今後の詳細な考察を要するが,(3)については,聞き取り調査時点で,GT運営農家は,将来自身が外国人の介護を受けることに対し抵抗感が薄いという結果が得られた。長期的な外国人との共生のあり方にも,示唆的な事例研究となり得ることを示す結果であり,今後も考察を進める。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の予定では,2014年度に「調査I GT運営農家を対象とした他者受容の思想群と個人史についての聞き取り調査」のすべてと,「調査II 他者受容を可能にする秋田県仙北市の地域史についての文献および聞き取り調査」の前半を実施し,2015年度に「調査II」の後半と,「調査III 『他者受容を可能にする農村コミュニティの思想』刊行による個人史と地域史の統合」を行うことを予定していた。しかし,2014年度後半に産前産後の臨時休暇を取得し,2015年度は産前産後の臨時休暇取得直後に職場復帰した。そのため,教育業務が優先となり,また育児の都合でフィールドでの聞き取り調査が実施できなかった。 2016年度には,「調査I」の後半にあたる第2回目の聞き取り調査を実施し,GT運営農家個人の移動経験や他者受容の思想群については詳細なデータを収集できた。しかし,こうした移動経験や他者受容の思想の背景を理解するための「調査II」については実施できなかった。育児の都合で,聞き取り調査の考察が遅れていることと,フィールド調査を複数回実施することが難しい状況が続いていることが理由である。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の予定では,「調査I」「調査II」の考察結果を合わせ,書籍化することを本研究の目標としていたが,すべての調査を実施した上での成果発表のためには,さらに複数回のフィールド調査が必要となる。現状では,短期間内での複数回の調査実施は困難なため,研究の到達目標を変更し,2017年度内に「調査I」としてすでに終了した2回の聞き取り調査の考察を進め,研究成果として公開することを目指す。一方で,GT農家がなぜ異質な他者を受け入れる思想をもちうるのかを解明し,他地域でも応用可能な成果とするためには,個人の移動経験や思想という観点にとどまらず,それらを育んできたであろう地域特性を含め,立体的に原因を描き出す必要がある。「調査II」を継続して実施することが不可欠であり,本研究課題の期間終了時までに,現地にて,地域史(具体的にはわらび座定住とGT開始の経緯)に関する資料収集を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2016年度には,「調査I GT運営農家を対象とした他者受容の思想群と個人史についての聞き取り調査」の後半にあたる第2回目の聞き取り調査を実施し,GT運営農家個人の移動経験や他者受容の思想群については詳細なデータを収集できた。しかし,「調査II 他者受容を可能にする秋田県仙北市の地域史についての文献および聞き取り調査」および「調査III 『他者受容を可能にする農村コミュニティの思想』刊行による個人史と地域史の統合」については実施できなかった。育児の都合で,「調査I」の聞き取り調査結果の考察が遅れ,またフィールド調査を複数回実施することが難しい状況が続いていることが理由である。
|
次年度使用額の使用計画 |
2014年度実施の第1回聞き取り調査について,一部未済の文字化作業を終える(人件費・謝金)。そのうえで,「調査I」の2回の聞き取り調査の考察を進め,研究成果として学会発表・論文刊行をめざす(旅費)。また,「調査II」として,個人の移動経験や思想を育んできたであろう地域特性に関し,わらび座定住をめぐる関連資料を収集する。主に,仙北市田沢湖図書館郷土資料館,秋田県立図書館での実施を予定している(物品費・旅費)。
|