MOF(ZIF-8)のテラヘルツ吸収スペクトルをGaP差周波発生式テラヘルツ分光装置を用いて1~6 THzの範囲で計測し,さらにMOFを各種ガスに暴露した後のスペクトルを同様に計測したところ,特定の吸収バンドの消褪が観測された.他グループの理論計算に基づく研究によると,このバンドはMOFのopen-gate現象と関連があり,ガス分子の取り込みと密接にかかわっていることが示唆されている.このことを考慮すると,本実験結果は,ガス分子がMOFに吸着したことによりopen-gate振動が抑制されたとこが分光的に観測されたものと理解することができる.また,当該バンドのピーク振動数における吸光度の時間的変化を測定したところ,その時間プロファイルはガスによって異なっていることが判明した.多くのガスについては指数関数的に吸光度が変化したが,ある種のガスについては指数関数よりも複雑な挙動であった.この結果を解析するために,MOFへのガス吸着を表現する数理モデルを構築した.このモデルでは,当該分子ははじめopen-gate振動を抑制するようなサイトに吸着するが,次第に抑制効果のないサイトへ移り,そこで安定化すると仮定していて,このモデルによって上述の特異な過渡応答が説明できる. また,シクロデキストリンと金属イオンからなるキラルなMOFのテラヘルツ吸収スペクトルは,キラルな揮発性小分子量有機分子の吸着によって変化し,その変化の仕方は吸着した分子のキラリティによって異なることが確認できた. 以上の結果から,MOFとテラヘルツ波との組み合わせによって,これまでにないタイプのガス化学アナライザが実現できることが実証された.
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