研究実績の概要 |
研究の最終年度は、聴覚障害者対応字幕の制作過程における情報共有と豊かな表現手法の開拓に繋げるために重要な「字幕のユーザーフィードバック手法の構築」において、これまでの研究過程で得た成果を精査し新規システムを提案した。はじめに、現在、映画館での利用が推進されているHMD(Head-Mounted Display)を用いた字幕提示システムを取り上げ、生体影響の観点から、聴覚障害者を対象にHMDによる字幕提示システムの可能性と課題を抽出した。その結果、実験に参加した聴覚障害者の約半数は約2時間の字幕付き映画鑑賞においても支障なく利用できたが、他の約半数は生体影響の主観評価(SSQ, Simulator Sickness Questionnaire)スコアが高まり、HMDを用いた字幕提示手法の改善が必要なことがわかった。さらに詳細な分析と考察から、HMDを通じて字幕を見ている時間の長さがSSQスコアの増加に影響する可能性が示唆された。このことから、ユーザーの聞こえの状態や字幕への慣れ度合いに応じて字幕量を調整する機能が有用であると考えた。そこで、最終年度の後半は、字幕巻き戻しタイミングだけでなく字幕量の調整タイミングや調整量を判断するための生理指標について検討した。ここでは、ユーザーへの負担が少なく、モニタリングやデータ分析のしやすい瞬目情報に着目した。瞬目の中でも自発性瞬目の発生率は認知処理に応じて増減することが知られている。本研究では最後に、認知負担度を評価する指標として自発性瞬目の利用方法を検討した。さらに、これらをまとめ、生理指標を手掛かりとした字幕の最適化、および、それらの調整履歴の字幕制作側へのフィードバックからなる、新しい字幕ユーザーフィードバックシステムを提案した。
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