研究課題/領域番号 |
26870065
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
早尻 正宏 山形大学, 農学部, 准教授 (50466637)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 地方自治 / 森林管理 / 福島県 |
研究実績の概要 |
今年度は、東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により深刻な放射能汚染に見舞われた福島県において現地調査を実施した。全国で4番目に広い森林面積を有する福島県では震災以前、素材生産量が全国で7位、製材工場数が全国で5位を占めるなど、豊富な森林資源を背景に林業、木材産業が展開してきた。だが、震災以降、林業、とりわけ森林整備(造林、保育)を取り巻く環境は一変した。県の調べでは、県内民有林の森林整備面積は2007年度以降12千ha台を推移していたが、2011年度は7,387ha、2012年度は6,212haに減少した。その要因として、人の立ち入りが制限されている避難指示区域での営林停止、避難生活の長期化に伴う森林所有者の経営意欲の低下などを挙げることができる。こうした中で、林野庁は2013年度から、森林整備の継続を通じて放射性物質の削減と拡散防止を図る「ふくしま森林再生事業」を創設した。「ふくしま森林再生事業」は、環境省の枠組みでは住居等の近隣以外の森林について十分な除染対策が講じられていないことから、東京電力が経費を負担する除染以外の枠組みを設けて森林除染を事実上進めるというものである。おもな事業主体は「放射性物質汚染対処特措法」に基づき指定された汚染状況重点調査区域の市町村である。調査の結果、市町村ではそもそも森林行政の優先順位が低いこと、森林行政に精通した専門職員が関連部署に配置されていないことなどから、「ふくしま森林再生事業」は当初の計画通りには進んでおらず、実施体制の見直しが課題となっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では調査結果を下記のとおり取りまとめた。著作は、濱田武士・小山良太・早尻正宏編著『福島の農林漁業をとり戻す』(みすず書房)である。論文等は、①早尻正宏「原子力災害からの山村の復興と森林組合の『協同の任務』」(協同組合経営研究誌にじ,647:117-125)、②早尻正宏「福島の林業再建に何が必要か――『公共の任務』を考える」(森林科学,72:21-24)、③早尻正宏「原発事故・放射能汚染と森林組合の経営対応――福島県内の「被災組合」の事例分析」(林業経済研究,60(3):13-24)、④木村憲一郎・岡田秀二・伊藤幸男・早尻正宏・岡田久仁子「東日本大震災後の福島県森林・林業行政の取り組みと課題」(農村計画学会誌,33:209-214)、⑤早尻正宏「山村地域の再生と『小さな協同』――広域合併下の森林組合の課題」(協同組合研究,34(1):12-20)、⑥早尻正宏「被災山村の地域経済と産業再建の現局面――原発事故と森林組合」(森林組合,535:16-20)――の6点である。
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今後の研究の推進方策 |
全国でもっとも市町村数が多く、森林地域に、「平成の大合併」期における合併自治体と非合併自治体が混在する北海道を事例地とする。先行研究のレビュー、北海道や道内市町村、北海道森林整備担い手支援センター等の林業関係団体からの情報提供を踏まえ、道内を道南、道央、道東、道北の4地区に分けたうえで調査対象市町村を選定し、現地において聞き取り調査・資料収集をおこなう。サンプル数が多い北海道で現地調査を実施することにより、精度の高い結果が得られると考えられる。以上の調査結果をもとに、北海道における「森林管理の地方自治」のあり方について総合的に考察し、その現状と展開方向を明らかにする。
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