本年度は、中山間地域の再生施策に関するこれまでの国内調査の知見を国際的な視野から評価するため、イギリス中北部を中心に現地調査を実施した。4年間にわたる国内調査(北海道、東北地方、北陸地方、中国地方、四国地方)では、主に基礎自治体(以下、自治体)がイニシアティブをとる形で、森林組合や地元企業、地域住民といった多様な主体を巻き込みながら、地域再生に向けて具体的な施策を実行していく姿を明らかにしてきた。このような日本国内の諸実践とは異なり、イギリス中北部の中山間地域では協同組合やNPOをはじめとする社会的企業がイニシアティブを発揮して、地域再生の取り組みを積極的に推進していた。そこでは自治体が前面に出ることは稀である。確かにイギリスにおける社会的企業の存在感の強さの背景には行財政改革を徹底する緊縮政策があり、社会的企業は政府の提供する公共サービスの不足を補う役割を負わされてきたという側面もある。他方で、社会的企業が従来の政府とは異なる発想で創意工夫を重ね、機動的に地域課題にアプローチしてきた点にも注目すべきであろう。政府系の資金に限らず、さまざまなファンドから財源を調達し、地域住民のニーズに根差したサービスを提供する取り組みは、日本国内の地域再生のあり方を考える上でも示唆に富む。中山間地の地域再生を担い、その運動をリードする存在として森林組合などの既存の非営利・組織だけでなく、中小企業も含めた社会的企業の役割は日本国内でもますます高まるように思われる。
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