研究課題/領域番号 |
26870073
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
長谷川 健 茨城大学, 理学部, 准教授 (00574196)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 火山 / 広域テフラ / 古地磁気方位 / 大規模火砕流 / 対比 / 同時噴火 |
研究実績の概要 |
本研究では、広域テフラを識別・同定するための新しい判断基準として古地磁気方位に注目する。年代値や岩石学的特徴とは全く異なる、新しいテフラ同定法を提案することが目的である。 平成26年度は、主に北海道に分布する広域テフラについて検討を行った。北海道東部には阿寒、屈斜路および摩周火山から発生した多数の大規模火砕流堆積物が広く分布する。さらにこれらの火砕流の間には、北海道内外に由来する広域テフラが複数挟在する。これらのうち、阿寒火砕流14、屈斜路軽石流IIIおよびIV、摩周f火砕流、十勝火砕流、阿蘇4火砕流について、非溶結のテフラ層から自作の定方位装置を用いて定方位サンプリングを行い、古地磁気方位を測定した。上記火砕流のうち、給源近傍で溶結するものについては溶結部の古地磁気データも取得した。 まず、阿蘇4火砕流について、広域テフラ(阿寒・屈斜路地域)と強溶結部(阿蘇火山地域)の古地磁気方位を比較した。偏角においては、95%信頼限界の範囲で両者が一致することが分かった。しかし、誤差の範囲を超えて伏角が異なるサンプルが認められた。十勝火砕流については、広域テフラ(阿寒・屈斜路地域)と強溶結部(十勝地域)のいずれのサンプルも保磁力が弱い点で共通しており、本火砕流はエクスカーション・イベントに発生した可能性が指摘できる。さらに検証は必要であるが、上記の結果から、大規模火砕流は、遠方相であっても給源近傍の堆積物と同様の古地磁気特性を示す可能性が確かめられた。 さらに本研究では、地質学的に同時噴火の可能性がある大規模火砕流について古地磁気特性を検討した。同時期と考えられる、阿寒火砕流14と十勝火砕流、阿蘇4火砕流と屈斜路軽石流III、摩周f火砕流と幸屋火砕流について検討した結果、摩周f火砕流と幸屋火砕流はやや古地磁気特性が類似するものの、他2例は明瞭に異なる古地磁気方位を示すことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、平成26年度の計画は、同一の大規模火砕流において広域テフラと溶結部の古地磁気特性が一致するかどうかを検証することであった。当該年度では、ブラントン・コンパスと自作の定方位装置を用いることで、阿蘇4火砕流、十勝火砕流、および屈斜路火砕流IVについて、未固結部からも高精度の定方位サンプルを採取し、上記の検証を行うことができた。さらに、まだ未測定ではあるが、予定していたニュージーランド、タウポ火山帯に分布する大規模火砕流のサンプリングも行うことができたので、研究の進捗状況は概ね順調と言える。一方で、いくつかのサンプルについては、誤差の範囲を超えて、広域テフラと溶結部で古地磁気方位が異なるケースが認められた。これについては、原因の追及や追加試験など、さらなる詳しい検討を要する。 また、本研究を進める過程で、精度の高い定方位サンプリング装置を試作できたことで、過去の地質時代に起こった「同時期大規模噴火」の可能性を検証する手法を開発しつつある。同時噴火の検証だけでなく、従来、一連で、時間間隙を置かずに発生したと考えられてきた「降下軽石とそれを直接覆う火砕流」の間に有意な時間間隙があるかどうか、といった検証も可能である。これらは、当初の研究目的とはやや異なるが、この手法をさらに開発・確立することは将来起こりうる大規模噴火の推移予測などにおいても重要な意義があると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、当初の計画通り、磁化獲得プロセスの追跡実験を行う。特に安定な磁化が得られた天然試料(たとえば阿蘇4テフラ)を用いて、広域テフラが磁化を獲得するプロセスを追跡する室内実験を行う。無磁場室の中にヘルムホルツコイルを設置して磁場を生成させ、広域テフラ試料はアクリル製の容器内に降下・堆積させて、実験を行う。 一方、本研究を進める過程で、高精度の定方位サンプリング装置を作成できたことで過去に発生した「同時期大規模噴火」を検証する手法を開発しつつあるため、これに関する研究も進展させたい。今回検証した、阿寒火砕流14と十勝火砕流、阿蘇4火砕流と屈斜路軽石流III、の組み合わせは、いずれも給源近くに堆積した大規模火砕流が遠方起源の広域テフラを直接覆う関係であったが、いずれの場合も、上位火砕流による下位広域テフラ層の古地磁気特性のリセットは認められなかった。今後もいろいろなケースを考慮する必要があるが、直下のテフラ層の古地磁気特性がリセットされないことを確認できたことは、本手法を用いるうえで重要な点と言える。「大規模同時噴火の検証」は当初の研究目的とはやや異なるが、研究対象である大規模噴火の発生頻度や発生様式などを詳しく検証する上で非常に重要であると考えている。最近では、噴火予測や防災対策の面からも大きな意義があると考える。「同時噴火」の検証とともに、従来、時間間隙を置かずに発生したと考えられてきた「降下軽石とそれを直接覆う火砕流」の間に有意な時間間隙があるかどうかの検証も進めたい。
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