本研究は人類学的現地調査をもとに現代インドのナーグプル市近郊の農村Uで反差別運動に取り組む仏教徒(元不可触民)組織SBSと、ナーグプル市を活動拠点とする仏教僧佐々井秀嶺の社会参加仏教を比較分析する。これにより、それぞれの「反差別(差別に抗する連帯の形成)」と「脱差別(差別を脱する場所の創出)」の取り組みを考察し、関係的差別を克服する方策を明らかにした。平成28年度は現地調査と研究発表に取り組んだ。 (1)平成26年度と平成27年度に実施した計4回の現地調査成果を見直し、これまでは十分に調査されていなかった点(ナーグプル市のヒンドゥー教祝祭のデータ、農村Uのヒンドゥー教徒の視点など)を明らかにした。 (2)これを踏まえ、第五次調査(2016年8月19日~9月3日)と第六次調査(2017年2月28日~3月14日)をナーグプル市及び農村Uで実施した。この調査ではSBSの活動家、佐々井、現地研究者、ナーグプル市や農村Uで暮らす仏教徒へのインタビューを実施した。これに加え、8月25日のヒンドゥー教のクリシュナ生誕祭における参与観察や農村Uで暮らすカースト・ヒンドゥーへのインタビューに取り組んだ。 (3)3年間の研究成果をまとめ、『社会苦に挑む南アジアの仏教』(関西学院大学出版会)に「ポスト・アンベードカルの仏教徒運動についての試論-南アジアにおける暴力的対立克服への示唆」を執筆し、『文化人類学』81巻2号に「ポスト・アンベードカルの時代における自己尊厳の獲得と他者の声―インド・ナーグプル市の反差別運動と仏教僧佐々井の矛盾する実践について」を掲載した。また2016年度マハーラーシュトラ研究会(東京外国語大学)で研究発表「アンベードカルとガーンディーのモデルの翻訳と接続についての試論:D.R.Nagarajを起点に現代ナーグプルの仏教徒運動を人類学的に考察する」を行なった。
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