本研究は、帝政ロシア統治期(1867-1917 年)の中央アジア南部定住地域における帝国政府内省庁、企業家、植民地当局といった様々な主体の間での開発をめぐる議論と実践が、同地域の現地政権・社会によって維持されてきた土地制度・水利慣行の実態となぜ乖離していたのかを明らかにしてきた。さらに、その乖離を、帝国権力と現地社会という二項対立に収斂するのではなく、帝国内の様々な主体および主体間の関係が生み出したものとして捉えなおし、新たな近代ロシア帝国像の構築を試みている。 本研究の最終年度にあたる平成29年度には、ロシア、ウズベキスタン、ジョージアにおいてのべ 1か月程度の文書館調査およびフィールド調査を実施した。収集した史料は、ロシア国立海軍文書館に所蔵されるアラル海艦隊、アムダリヤ艦隊に関連する文書、およびジョージア国立文書館に所蔵される、1860-1870年代コーカサス総督府が主導したアラル海=カスピ海間の地理、交通に関する調査の記録文書が中心である。 また2018年1月には民族史、同年2月には都市史の観点から、帝国論および開発をめぐる議論に関する国際ワークショップを実施した。またこれらのワークショップの前提として、『歴史と地理 地理の研究』第196号に「中央アジア乾燥地域の都市と水資源―ヒヴァ―」と題する小文を刊行し、議論を整理した。ただし中央アジアの灌漑史研究の視点から新たな近代ロシア帝国論を単著にまとめる作業は、Palgrave Macmillan 社からの出版を目指して現在取り組んでいる。
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