平成27年度に実施した研究、および研究期間全体を通じて達成された研究成果は次の通りである。 1. Unicode に収録された楔形文字集合(U+12000~12473)と、これまで公刊された複数の楔形文字字典(Borger 1978/2003、Labat 1995、von Soden 1991)を比較しながら、楔形文字字典データを XML ならびに Text Encoding Initiative (TEI) 形式で作成した。また、前年度に作成したアマルナ書簡テキストにおける個々の文字範囲から、楔形文字辞典データにおける該当文字へのリンクを設けた。これにより、書簡で実際に使われている文字や、その文字に関する情報を参照することが可能になった。 2. アマルナ書簡に書かれている言語(アマルナ語)の情報を適切に埋め込むための文法範疇の設定、ならびに TEI に準拠した XML タグセットの開発を行った。そもそも、アマルナ語は周辺の諸言語の特徴を取り込んだ混成言語であるため、語に含まれる意味素性情報と、音形(語や形態素の「かたち」)に関する語形成情報の両方が、言語研究にとって重要な役割を持つ。言い換えれば、形態意味論的な情報と形態音韻論的な情報とを両立させる必要がある。その基盤となる言語理論の考察と、オープンデータを視野に入れた具体的なタグセットを考案し、実際にアマルナ書簡データに埋め込んだ。 3. 上記の作業工程により、アマルナ書簡のデジタル化については、楔形文字情報を含む粘土板 379 個分の TEI データに加え、言語分析情報を含むもの 30 個分の TEI データが作成され、研究目標であった数値を達成した。また、以上の成果を 11 月 7~8 日にリュブリャーナ(スロベニア)で開催された「第 8 回人文系欧州・日本学術ネットワーキングプロジェクト」にて発表した。
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