大規模災害時が今後、発生した場合、多数の御遺体に身元不明者が含まれる可能性がある。性別すらわからない多数の御遺体のなかから個人識別につながる情報が得られれば、多数の行方不明者から該当者を絞り込むことができるはずである。本研究の主な目的は、身元確認目的の画像診断における診断項目の確立である。個人識別に有用と思われた検討項目については①性別②血管所見③骨軟部所見④医療材料⑤実質臓器所見⑥その他をそれぞれの症例でリストを作成し、個人識別につながり得る所見を中心に生前・死後の画像について検討した。 全研究期間で合計40件の症例に対して生前・死後画像の評価を行った。この結果、骨軟部所見で骨に発生する、いわゆる骨島(bone island)が個人認識に有用である可能性が示唆された。骨島は、ほぼ全例にみとめるが、発生する部位がそれぞれ異なり、かつバリエーションが少なく、性別差も無く発見された。また時間が経過しても形態や位置の変化がほぼ見らなかった。このため骨島の発生部位などを中心に調べることで個人認識につながるデータとして有用ではないかと思われた。 個人識別に有用と思われた検討項目(6項目)をもとに全40例で、生前画像と死後画像を比較し、同一人物と思われる生前画像と死後画像の抽出をおこなったところ全例で同一人物の抽出が可能であった。しかし今回の研究では対象症例数が少なく大規模な症例数での検討ができていないこと、また御遺体の状態が保たれている症例が多く、火災や大地震など御遺体の損壊が激しい場合の症例についての検討ができなかった。このため今回の研究のみで十分な検討ができたとは言えないと考えられた。今回の検討項目をもとに今後もデータを蓄積し、その有用性を明らかにするとともに「全身CT撮影による個人情報の収集」が個人認識に役に立つかどうかの検討を続ける予定である。
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