認知行動療法は、認知が学習に基づいて変化しうることを利用し、多くの精神疾患で患者のもつ認知の歪みをより合理的な方向に変容させる心理学的介入である。従来の薬物療法と同等以上の高い治療効果エビデンスと高い再発予防効果をもつことが知られている一方で、効果に個人差が大きく、その原因に脳機能の個人差の影響が推定されている。本研究では「認知再構成過程の進行に相関するような、短時間の神経活動変化と、脳構造の個人差がある」との仮説を設定し、以下の実験と解析を行った:(1) 機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、認知再構成の進行(確信度の変化)に相関する活動を示す脳部位の同定と、その動的変化パターンの観察,(2) 脳の形態画像(T1強調画像、拡散テンソル画像)の解析による、認知再構成の生じやすさに相関する形態的・機能的な脳所見の検索. 認知課題により得られた確信度の有意な低下効果を数値化し、fMRIやMRIによる脳画像所見と相関する領域を検索したところ、左後頭頂皮質の活動量が確信度の変動幅と正に相関することがわかった。すなわち、この脳領域が強く活動した被験者ほど信念が変化しやすかったことを示す結果であり、この脳領域に関連の深い感覚情報の統合や観念、演繹的推論といった脳機能が認知行動療法の神経心理学的背景として示唆された。認知行動療法の作用メカニズムに関わる脳活動のfMRIによる画像化に成功したのは世界で初めてのことである。確信度の変動幅は脳左半球の白質線維情報と相関を示し、脳左半球の機能が認知行動療法に重要であることが別角度からも示唆された。これらの結果に基づき、学術論文を1報、国際学会発表を3件行った。
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