研究課題/領域番号 |
26870101
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
加川 夏子 千葉大学, 環境健康フィールド科学センター, 講師 (60467686)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | インドールアルカロイド / 天然物 / モノアミンオキシダーゼ阻害 / インドレニン / アリル化反応 / パラジウム触媒 / 国際共同研究 / 全合成 |
研究実績の概要 |
Strictamineは脳神経作用をもつ植物性アルカロイドである.この薬物分子が構造活性相関の観点で興味深いのは,インドール部がインドレニンという異性体構造を有することである.このことから,合成戦略としてどの段階でインドールを構築するか,は大事なポイントになってくる.本研究課題の合成戦略では,生合成機構を模倣してインドール骨格を出発原料にしている.終盤でインドールをインドレニンに変換する反応が鍵となるため,同じ生合成遺伝子を背景にもつインドールファミリーが類縁体として効率よく合成できる利点がある.平成27年度は,我々の合成戦略における鍵反応の前駆体を合成するために,新しい化学変換反応を開発した.本反応はこれまでになかったタイプの分子変換を可能にする.すなわち,アルコール分子を炭素が一個増えたカルボン酸,エステル,あるいはアミドに変換する反応である.この手法は,基質汎用性,安全性,かつ収率も良く,一例としてベンジルアルコールをワンポットでN-ベンジル-2-フェニルアセタミドへ96%の良い収率で変換できる.従来の方法ではこの変換には4工程を有し,総収率は60%台が上出来な位であった.開発した手法は,本研究課題を進展させる上で必要不可欠な変換反応であり,合成経路で重要な位置を占めると予想される.全合成へ向けた効率的な分子変換反応を検討したことから,結果として来年度の研究計画を先取りした. 本課題は国際共同研究であり,海外研究者であるシカゴ大学化学科教授と頻繁に連絡を取って協力し合っている.学術国際会議に参加して,直接会って打ち合わせを行う他に,ウェブカメラで通話できるFaceTimeサービスを利用している.また,ファイル共有サービス(ドロップボックス)を使って,研究成果発表の資料作成や実験レポートの共有を実施している.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにインドール環を足掛かりとしてグラムスケールで反応を行い,収率を落とさずに生成物を得ることができている.合成経路の鍵となるインドレニン環構築反応を充分に検討するため,鍵反応の出発原料となる天然物geissoschizolの合成法を見直し,より温和な条件で簡便に,且つ廃棄物が少なくなるような合成経路に変更した.この改善により,大量合成になるほどメリットが際立ち,安定的な原料合成を容易にする.さらにヨウ素を含む有機化合物の同定法を開発し,コンバージェント合成のパートナー中間体であるビニルヨウ素化合物の合成に活用した.また,geissoschizolの側鎖を一炭素伸長する合成戦略を可能にするため,これまでにないタイプの分子変換反応を新規に開発した.この分子変換法の開発は,当初は平成28年度の研究計画としていた.しかし本新規反応については,実現性の高いアイデアの着想を得て,初動実験でその有用性を確信できたことから,国内外の研究動向から急いで成果をまとめて学術誌に報告することにした.よって平成27年度の研究計画は一部が後回しになってしまう形になったが,次年度の研究計画は既に実施された。その結果,開発に成功した増炭反応をstrictamineの合成に活用できる見込みである.
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度に開発した新規増炭反応を,geissoschizolもしくはその誘導体に適用して,鍵となるアリルカルボネート中間体を合成する.続いてこのアリルカルボネート中間体を用いてパラジウム触媒による分子内アリレーションを実施する.本反応はインドール-インドレニン互変異性化を利用して高官能基選択的に進行することから,温和な条件でC3位にアリル置換基を導入できる反応である.これによりstrictamineの基本骨格であるインドレニン環構築を試みる.合成経路を効率化するための新規増炭反応の開発は,当初は平成28年度の研究計画であった.しかし,先に反応開発に着手することで,本題の天然物合成に有効活用できれば,合成経路の大幅な短縮につながる.さらに,反応の新規性に鑑み,合成経路の独自性を主張できると思われたので、新規反応の開発を優先させた.このような事情で,平成27年度と平成28年度の研究計画について順番を換えて実施している.
|
次年度使用額が生じた理由 |
海外国際学会へ参加して、情報収集および海外協力者との意見交換を実施したが、この際に生じた参加費と宿泊費などの旅費に関しては、別予算を用意できたため。実験補助員の雇用費用に対して別予算を充てられたため。また所属研究機関内の実験設備をレンタル利用して、委託分析費用を抑えられたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度分の助成金と合わせて、研究実施計画に沿って助成金を使用する。次年度使用額分は主に、国際学会発表(米国)のための旅費、英語論文校閲のための謝金、オープンアクセス論文の投稿料、試薬類の購入費に充当する。
|