研究課題/領域番号 |
26870107
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
野本 知理 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00510520)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | チップ増強ラマン分光 / 振動分光法 / ラマン分光法 / 近接場顕微鏡 |
研究実績の概要 |
光の回折限界を超えた高い空間分解能にて振動スペクトルを得られる手法として近年応用が進められてきたチップ増強ラマン分光法(TERS)を電気化学環境下に適用することで、微細な表面構造への吸着分子や担体表面の電場応答、電気化学反応に応じた振動スペクトルを得ることを本研究は目的としている。昨年度までの研究ではTERS測定系を水中に導入してバイポテンショスタットを組み込むことで、試料電位を制御してTERSの測定が可能な装置の構築を行った。 今年度はITOでコートしたカバーガラス表面に板状金ナノ粒子を付着させてp-アミノチオフェノール分子を吸着させた試料について、吸着分子のTERS測定・電位応答変化の計測を試みた。測定に際しては、板状金ナノ粒子の合成を行ってITO基板上に滴下、乾燥させ、六角形の板状結晶がITOコート基板上に付着した基板が作製されていることをSEM観察により確認した。つぎに、基板を水中・電解液中に導入してTERS測定を試みたが、基板上の板状結晶の密度が低く、広範囲の基板上からナノ粒子を探索の後にTERS測定を行う必要があった。ところがこの際、探針の高さ制御の安定性の問題から探針または探針保護膜がダメージを受けることが多い。このため板状結晶の密度を高くした場合についても測定を試みたが、結晶が積み重なった構造となったり凝集等の影響により、基板上の吸着分子のTERS増強が得られないことが多かった。以上の問題を解決するため、板状の単結晶ナノ粒子ではなく、金属薄膜を蒸着したパターンを使用して吸着分子の測定を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は板状金ナノ粒子の合成を行って六角形の板状結晶をITO基板上に滴下、乾燥させ、ITOコートカバーガラス上に粒子が付着した基板を水中・電解液中に導入してTERS測定を試みた。ところが基板上の板状結晶の密度が低く、基板上の結晶の探索の後にTERS測定を行う必要があり、各試料での粒子探索と探針高さ制御の安定性、探針のTERS活性・保護膜の保持がいずれも良好な条件でないとスペクトルを得ることができない。実際に測定を行うと試料探索での探針・探針保護膜のダメージ頻度が高かったり、結晶密度を高くした場合の凝集などによってTERS信号の検出ができなかった条件が多かった。以上の理由によりTERSによる粒子上の吸着分子の検出には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、現状のシステムで板状単結晶ナノ粒子のTERS測定を試みた場合、付着位置がランダムなため位置の探索に長大な時間が掛かり、また探索時に探針・保護膜にダメージを受ける確率が高いことが明らかになっている。そこで測定時間の短縮によるダメージ確率の低減のため、蒸着で作製した金属薄膜パターン上への吸着分子のTERS測定を行うことを計画している。蒸着での作製により、吸着担体となる金属膜厚を薄くするとともに均一なものとして、金属表面・吸着分子の存在箇所とそうでない箇所の判別を容易にする。これにより、電気化学条件下、微細な金属パターン状の吸着分子のTERSスペクトルの測定が実施できることを示す。 金属薄膜パターンの作製はITOコートカバーガラス表面をポリスチレン球で被覆、テンプレートとして蒸着を行うことで行う予定である。この基板上の金属表面に分子を吸着させTERSを試みることで、基板上の粒子位置の不定性や粒子の厚さの不定性による長時間の試料探索を短縮することができると考えられる。金やパラジウムによるパターンを作製してチオール系分子を吸着させ、これらの分子の電位応答に伴うスペクトル変化の観測を行う。 以上の研究を通じて、TERSの電気化学環境下への適用方法の確立を目指すと共に、TERSスペクトルの電位変化の観測、金属・分子の電子状態や吸着分子の構造情報から微小な空間に吸着した分子特有の構造・性質を議論できるようにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行にあたって進捗に応じて必要な試薬・材料を必要に応じて購入しているため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用する試薬・光学部品などの購入費・加工費として使用する予定である。
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