研究課題/領域番号 |
26870110
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鹿島 洋平 東京大学, 大学院数理科学研究科, 協力研究員 (20648282)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 多体電子系 / BCSモデル / 自発的対称性の破れ / 非対角長距離秩序 / グラスマン積分 / 複素磁場 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き多体電子系の厳密な構成について研究した。本年度は特に低温超伝導の微視的理論を構築したBardeen、Cooper、Schriefferが提案したモデル(BCSモデル)をグラスマン積分の方法により解析した。1957年のBCS理論の発表以降多くのBCSモデルに関する数理物理的な論文が出版されたが、正の温度下で自発的対称性の破れとクーパー対長距離相関(非対角長距離秩序)を4点のフェルミオン作用素からなる相互作用を持ったハミルトニアンから証明している論文は意外にも少ない。長い研究の歴史を持った理論にも関わらず、申請者の知る限り、一般のBCSモデルで超伝導相関が厳密に証明できるという統一見解はまだ無い。そこで本年度の研究では、複素数に拡張された外部磁場付きのBCSモデルにおいて正の温度下で自発的対称性の破れと非対角長距離秩序が起こるということを証明した。複素磁場はギャップ方程式の性質を変え、その結果通常のBCSモデルではおこりえない高温、弱結合の条件下で超伝導相が現出することがわかった。多体問題において外部磁場を複素数に拡張する取り組みはBCS理論以前(1952年)にLeeとYangが提案して以来、数理物理の重要なテーマである。近年(2015年)の物理実験で古典スピン系におけるLee-Yangの零点が実験的に検知されており、そこでは複素磁場付きの古典スピン系と同一視できる実際の多体系を構成することが鍵となっている。したがって複素磁場付きのBCSモデルの数学的な研究は、今後の物理実験への理論的な指針を与えるものと考えられる。今年度で得られた結果はプレプリント(投稿中、arXiv:1609.06121)にまとめられている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度まではハバードモデルと同じ対称性をもつクラスの多体電子系のモデルに対してマルチスケール解析を構成したが、本年度は相互作用項の対称性という観点で本質的に異なるBCSモデルを解析した。これは解析できるモデルのクラスが広がったという意味で良い進展であると考えている。BCSモデルは長い数理的研究の歴史を持っている。そこにグラスマン積分という比較的新しいアプローチを展開できたことは意義のあることである。また複素磁場とBCSモデルを融合できたことにより、エルミート性を持たないモデルも多体電子系のマルチスケール解析で研究できる範疇にあることが示された。研究対象となるモデルのクラスを以上の意味で広げることができたため、本研究課題はおおむね順調であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
統一見解がまだないモデルを考察した本年度の研究において重視したことは、主張が成り立つということを明示的かつ単純に証明するということである。したがって煩雑な議論により定理の仮定を緩和することは目指さず、最適ではないが単純な評価により定理の仮定を作った。これを第一歩として、今後は定理の仮定を緩和すること、取り扱うことのできるモデルを広げること、そのために必要な解析方法を構築する必要がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
所属する研究機関における地道な努力により研究成果をあげることができた。また申請者自らで数理解析の方法を構成し、論文を執筆した。したがって情報収集のための出張の必要および研究成果をまとめるための物品の購入の必要が当該年度は多くは生じなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
地道な努力によって得られた研究成果を研究集会で発表するための旅費として主に使用したい。
|