研究課題/領域番号 |
26870120
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中島 一成 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10709471)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 光誘起電子移動 / フォトレドックス触媒 / ラジカル / ナノカーボン |
研究実績の概要 |
光誘起電子移動を鍵とする有機合成反応は、反応性が高く制御が困難なラジカル種を簡便に発生できることから有用な合成手法といえる。これまで我々のグループは、光誘起電子移動によるアミンの一電子酸化を鍵として、α-アミノアルキルラジカルを活性種とする種々の分子変換反応の開発に成功してきた。しかしこれまで、その反応例はアルケンへの付加など、小分子の精密合成に主眼を置いたものに限られてきた。そこで本研究では、この光反応の手法をナノカーボン類の修飾手法へと展開することを目的としている。 ナノカーボンの代表例として、フラーレン、グラフェン、カーボンナノチューブやコラニュレンなどの多環式芳香族炭化水素が挙げられる。これらの化合物は電子的、光化学的に興味深い物性が知られており、これを基盤とする材料開発は大きな注目を集めている。とりわけ、これらナノカーボンと遷移金属を複合化した材料はナノカーボンの性質に加えて、金属種特有の酸化還元特性や磁気的物性を付与できることから興味深いといえる。しかしながら、ナノカーボンと金属を複合化する手法はCVD法などの無機化学的なトップダウンの手法に限られており、有機合成的な手法を利用したボトムアップ型の手法はほとんど知られていない。そこで、光化学的反応手法によりα-アミノアルキルラジカルを用いた修飾ができれば、アミノ基を足掛かりとした更なる材料設計を行うことができる。 そこで、今回我々は、遷移金属ポリピリジル錯体を光触媒として、可視光照射下、α-アミノアルキルラジカルを鍵中間体とする多環式芳香族炭化水素の官能基化反応を開発した。特に今回、代表的な多環式芳香族炭化水素としてフラーレンおよびコラニュレンの官能基化反応の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当研究室では、フラーレン誘導体の有機合成的な取扱いについてこれまでほとんどノウハウがなく、実験系の確立には時間がかかると考えられた。そのため、研究計画の初年度にはいくつかのナノカーボンのうち、1つの官能基化が成功すれば十分だと考えていた。しかし、実際には、フラーレンの官能基化に関する研究は実験系の確立がスムーズに進行し、光反応を十分に検討することができた。また、フラーレンに関する結果は論文として発表することができた。加えて、フラーレンの結果のみにとどまらず、さらにコラニュレンの官能基化についても反応開発に成功し、論文として発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに、フラーレンおよびコラニュレンについてα-アミノアルキルラジカルを用いた官能基化に成功し、π共役系の近傍にアミノ基を導入することができた。そこで、今後は当初の計画通り、アミノ基を配位子とする遷移金属錯体の合成を検討する。遷移金属錯体としては、空気下安定で取扱いの容易な反磁性種を形成するパラジウム、白金、ロジウム錯体の合成を中心に行う。その後、鉄やコバルトなどに展開する予定である。 この過程で錯体合成がうまくいかない場合には、導入するアミノ基上の官能基をさらにチューニングし、その電子的な性質を制御する。また、導入するアミノ基に更なる配位性官能基を導入して多座配位子とするなどの工夫を行う。 目的とする錯体が得られた場合には、電気化学測定や吸収、発光スペクトル測定によってその性質を明らかにする。また、これらの知見を基に、遷移金属-ナノカーボン複合体に特徴的な反応性を開拓し、その触媒反応への展開を検討する。 また、今年度までの研究の結果、本光誘起電子移動反応系を応用することでα-アミノアルキルラジカル以外の一般的なアルキルラジカルの発声法として利用できることが明らかとなった。そこで今後は、他のアルキルラジカルについても検討を行い、更に一般性の高い反応系の開発を目指す。また、同時にこの手法を利用することでアミノ基以外の配位性官能基の導入についても検討し、目的とする多様な遷移金属錯体の合成を行う。
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