平成28年度は,計画していた実験を行い,結果を分析した。この実験は,本研究計画の中心をなすものである。実験は,実際の設計案件を応用した2条件で行われた。参加者は,建築設計の実務者5名であった。参加者には,1条件につき約1ヶ月の時間をかけて3つ程度の設計案をつくること,作業中の資料は全て保管しておくこと,実験終了時には実験者によるインタビューに応じることを求めた。各参加者の設計プロセスは,作業中の資料とインタビュー結果にもとづいてデータ化された。以上のデータを,設計条件と設計者の2点から分析した。分析の結果,設計条件が厳しい場合には,設計者が異なっても,提出された最終案には共通する構造が現れやすいこと,条件が緩い場合には,そのような構造は現れにくいことが確認された。以上の分析結果は,本計画の立案時に想定していた,設計者をまたいで設計行為を制約する「マクロな制約」を示唆するものであった。一方で,新たな課題も見つかった。例えば,設計条件が厳しい場合には,共通した構造が現れるものの,それらが同じ建築空間として出現することはなかった。また,共通の構造を持つ案に至る過程は,設計者によって異なっていた。これらの結果は,「マクロな制約」が,設計案を制約するものの,一定の自由度を許容するという両義的な特徴を持つことを示唆している。本研究の成果は,新たに見つかったこれらの課題とともに吟味される必要がある。 研究期間全体を俯瞰すると,本研究は,研究期間を1年延長すると同時に,平成26,27年度に予定していた計画を一部変更して進めることになった。理由は,期間中に研究代表者の異動が生じ,研究環境を整備する必要が生じたためである。しかし,研究期間の早い段階で異動が生じたこと,また異動後の環境整備も周囲の協力を得て円滑に行うことができたため,研究内容については,およそ申請時の計画通りに進めることができた。
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