研究課題/領域番号 |
26870126
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
周防 諭 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (20596845)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ドーパミン / オクトパミン / C. elegans / 成長 / 産卵 |
研究実績の概要 |
動物の成長速度は遺伝および環境要因に影響を受けるが、その制御には神経系が関わることが示されている。本研究は、線虫C. elegansを用いて神経伝達物質による成長制御のメカニズムを明らかにすることを目的としている。これまでにドーパミン合成酵素の欠損変異体であるcat-2は体が大きいことを見出しており、この変異体にこの遺伝子を戻すと体長が野生型と同程度になることからドーパミンが体長を制御することが示唆されていた。今回、cat-2変異体をドーパミンを含む培地で飼育することで体長が減少することを見出し、ドーパミンが体長を制御することが確認された。さらに、cat-2変異体では野生型と比べ発生ステージがより進んでいることを見出したが、これはcat-2変異体が野生型よりも発生ステージの進んだ卵を産むことに起因する。産卵に異常のある他の変異体と比較することで、cat-2変異体が大きいのは単純に体の中に多数の卵を抱えているからではないことも確認した。これまでに、ドーパミンの下流でオクトパミンやその受容体、筋肉の機能に必要なミオシンやパーリカンが働くことを明らかにしていたが、産卵に異常があること踏まえて発生段階を揃えて再解析を行い、確かにこれら因子がドーパミンの下流で働くことを明らかにした。既に体長を制御することが知られているTGF-βシグナルとドーパミンとの関係については、これまでに両者が独立に働くことを示唆する結果が得られていたが、それぞれについて複数のアレルを用いて再検証を行った。また、インシュリン受容体DAF-2の変異体についても解析を行い、ドーパミンの下流でDAF-2が働くことを明らかにし、ドーパミンによる体長の制御にはインシュリンシグナルが働くことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究計画では、平成26年度に(i)ドーパミンがどのように成長制御を行うか明らかにし、(ii)その制御に関わる遺伝子を明らかにするために、遺伝学的スクリーニング行い、変異体を単離することとしていた。さらに、平成27年度には、(iii)それらの変異体についてその変異遺伝子の同定を行うことと、(iv)ドーパミン経路の下流で働く因子の同定を行うこととしていた。26年度に行った研究では、ドーパミンが成長制御を行う機構、ドーパミンの下流で働く因子の解析を行うとともに、ドーパミン―オクトパミンシグナル伝達に関わる因子の遺伝学的スクリーニングを行い、異常の見られる変異体を単離していた。27年度に行った研究では、ドーパミンの成長速度と産卵に対する影響をより詳しく解析し、内在性のドーパミンが産卵を促進することと、産卵への影響とは独立してドーパミンが体の大きさを制御していることを明らかにした。また、ドーパミンの産卵への影響を加味してより詳細な解析を行うことで、ドーパミンの下流でオクトパミンシグナルやインシュリンシグナルが働くことを明らかにした。また、既に体長を制御することが知られているTGF-βシグナルとドーパミンとの関係については、これまでに両者が独立に働くことを示唆する結果が得られていたが、それぞれについて複数のアレルを用いて再検証を行った。ドーパミン―オクトパミンシグナルに関わる変異体について、変異遺伝子の同定を試みた。しかし、異常が見られる個体の割合が小さいこととマッピングに用いるハワイアン株自体がドーパミン―オクトパミンシグナルに異常を持っていたため、変異遺伝子を特定するには至らなかった。ドーパミンによる発生の制御機構の解析については多くの進展が見られたが、スクリーニングによる新規遺伝子同定には至らなかったため、進捗状況は遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにドーパミン―オクトパミンシグナル伝達に異常の見られる変異体を単離して、その変異遺伝子の同定を試みたが、同定に至らなかった。これまでに単離した変異体はいずれも30%以下の個体で異常が見られる株で、異常の発現頻度が低いことがその原因の一つである。また、通常は変異遺伝子の同定を行う際にハワイアン株との掛け合わせが行われるが、ハワイアン株自身がドーパミン―オクトパミンシグナルに異常を持っていたことが、より解析を難しくしている。最近、我々はニューロペプチド受容体であるNPR-1の変異体がドーパミン―オクトパミンシグナルに異常があることを示しており、ハワイアン株がNPR-1に異常を持つことがこの原因であると考えられる。今後は、さらなる遺伝学的スクリーニングを行い、表現型がより強く、より高頻度で現れる変異体の単離を試みる。このような株が得られたら、今度はハワイアン株を用いないマッピング・遺伝子解析を行い変異遺伝子の同定を行う。また、ドーパミンとインシュリンシグナルの関係を解析する。これまでの解析でインシュリン受容体DAF-2がドーパミンの下流で働くことを示している。別に行ったマイクロアレー解析によって、ドーパミン欠損変異体では野生型に比べて、いくつかのインシュリン様リガンドの発現が上昇していることを明らかにしている。これらのインシュリン様リガンドの変異体で体長に変化が見られるか、そしてドーパミン欠損株で見られる体長増加にこれらリガンドが必要であるかを調べることで、これらインシュリン様リガンドがドーパミンの下流で成長を制御しているか解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度の研究計画では、単離された変異体の同定を行うことになっていた。変異体の同定のためには、全ゲノムシーケンスを行う必要があり、シーケンス解析にかかる費用が27年度に使用予定であった。しかし、これまでに単離した変異体はいずれも30%以下の個体で異常が見られる株で異常の発現頻度が低いこと、また、通常は変異遺伝子の同定を行う際にハワイアン株との掛け合わせが行われるが、ハワイアン株自身がドーパミン―オクトパミンシグナルに異常を持っていたことにより、シーケンス解析に用いるDNAを調整する個体群を集めることができなかった。さらに、この遅れのために消耗品全般の使用が遅れた。従って、シーケンス解析分と消耗品予算の一部が次年度使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度には、さらなる遺伝学的スクリーニングを行い、表現型がより強く、より高頻度で現れる変異体の単離を試みる。このような株が得られたら、今度はハワイアン株を用いないマッピング・遺伝子解析を行い変異遺伝子の同定を行う。この際に、全ゲノムシーケンス解析を行い、シーケンス解析用の予算を使用する。この過程で、次年度使用額となった消耗品予算の一部も使用する。また、この実験と並行してドーパミンの下流で働く因子を解析する。その際にも消耗品予算を使用していく。
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