動物の体の大きさは、遺伝と環境により決定されており、環境因子によるサイズの調節には神経系が重要な役割を果たすことが知られているが、サイズ調節の分子機構には不明な点も多い。本研究は、動物の成長制御の機構を解明することを目的に、モデル生物である線虫C. elegansを用いて行った。これまでに、神経伝達物質のドーパミンが線虫の体のサイズを抑制することと、ドーパミンの下流では神経伝達物質のオクトパミンとインシュリンのシグナル伝達が体のサイズの調節に働いていることを明らかにしている。さらに、この制御に関わる遺伝子を同定するために、遺伝子に無作為に変異を導入する遺伝学的スクリーニングを行い、ドーパミンシグナルに異常がある変異体を単離した。しかし、これらの変異体で見られた異常の強さが、変異遺伝子の決定を行うために十分でなく遺伝子決定には至らなかった。 また本研究では、ある種の化学物質が線虫の成長速度に影響を及ぼすことを明らかにした。実験条件の検討過程で、線虫を飼育するペプトンの種類の違いによって、線虫の大きさと成長の速度が異なることを明らかにした。通常、線虫は獣肉を原料としたバクトペプトンを含むプレートで飼育する。しかし、牛乳を原料とするカゼインペプトンで飼育すると線虫が小さく成長することを明らかにした。バクトペプトンとカゼインペプトンと両方を混ぜた培地で飼育しても、線虫は小さかったことから、カゼインペプトンに成長抑制を起こす何らかの分子が存在していると考えられる。牛乳そのものや牛乳に多く含まれるビタミンの影響を調べたところ、牛乳およびパントテン酸によって線虫の成長が抑制されることを明らかにした。ただし、パントテン酸はバクトペプトンとカゼインペプトンに同程度の量が含まれており、二つのペプトンで見られた違いは別の物質に起因すると考えられる。
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