本研究は、移行経済期ベトナムの労働市場における「平等性」概念とその変容について明らかにすることを目的とする。ベトナムの高学歴労働市場では、学歴取得者の急速な量的拡大によってその価値が多様化したことを一つの背景として、学歴以外の要件が労働者と企業とを結ぶマッチングメカニズムにおいて重要な役割を果たすようになってきている。本研究では、ベトナムにおける大卒者の、学校から職業への移行過程に焦点を当て、産業構造の変容とそれに伴う労働市場の拡大にともなって、本来であればうまく機能するはずの労働者をめぐる市場メカニズムが大きく混乱している現状に対し、学歴指標に代わる、あるいはそれを「補完」するものとして発達したさまざまな入職経路と、その後のキャリアパスのあり方を明らかにする研究に従事した。これにより、社会主義経済から市場主義経済への移行国において、これまで主として西洋社会で言われてきたような人的資本を基盤とする「平等性」概念が相対化されつつあることを示唆することが、本研究の目指す最終的なゴールである。 最終年度にあたる平成30年度は、2018年3月に刊行した研究成果である「ベトナム大卒労働者のキャリアパターン」(荒神衣美編『多層化するベトナム社会』アジア経済研究所)から得られた知見をさらに発展させることを目指し、2018年8月30日~9月1日にかけて、ベトナムでの追加現地調査を行った。また、2019年3月20日には、神田外語大学(千葉県千葉市)において、国際シンポジウム「階層化するベトナム社会を考える」を実施し、本研究の総括と今後の展望を明らかにするための議論の場を設けた。
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