本研究は、日本古典文学作品の写本と、古典文学に題材をとる美術作品について、文化財指定の歴史と美術市場における位置づけの変動を調査し、価値評価の変化が、近現代における日本古典文学のテキストの受容の歴史とどのような関係にあるのかを論じたものである。 日本の文化財保護の歴史は、古社寺の什宝の調査と保存から出発している。しかしやがて、対外的に「日本文化」を発信する需要の発生と海外美術市場の拡大とを受け、日本固有の文化を象徴する「モノ」の選別と保護へと方向を転換していった。古典文学についても、国文学史の確立や外国語訳の出版を通して、日本固有の文化の精華としての価値が見出され、古写本や物語絵画などの関連文化財もより高く評価されるようになってゆく経緯を、本研究を通して明らかにした。 最終年度となった平成28年度は、ウィーン大学で開催された国際比較文学会(ICLA、International Comparative Literature Association)において、和歌の古筆の海外における評価について、英語での研究発表を行った。平成26年度からの継続的な研究を通して、『古事記』『日本書紀』『源氏物語』『万葉集』『古今和歌集』を具体的な対象として取り上げる当初の研究計画を遂行した。 研究を進めてゆく中で、日記文学および説話文学についても調査を行う必要性が新たに浮上してきた。そこで、『紫式部日記』および「紫式部日記絵詞」と、「病草紙」と説話集の近現代における受容のあり方について、平成27年度から28年度にかけて具体的に調査・研究を行った。前者についてはは鹿島美術財団からの研究助成を、後者については共同研究の出版助成を出光文化福祉財団から受ける機会を得て、それぞれの研究内容を連動できたことで、調査と研究の幅を広げ、考察をより深めることができた。
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