絵巻など古典文学に題材をとる美術作品と、物語や和歌の写本・断簡について、文化財指定の歴史と美術市場における評価の変動を調査し、その価値の変化と、近現代における日本古典文学の受容の歴史との関連性を論じた。日本の文化財保護行政は、古社寺の什宝の調査と保存から、対外的に固有の文化を象徴する文物の選別と保護へと方向を転換していった。その中で、物語絵画や古写本の価値が高まったことと、国文学史の確立や外国語訳の出版を通して、古典文学、中でも平安朝の仮名文学が国風文化の精華とみなされるに至ったこととの具体的な連動性を論じた。美術史と文学の領域を横断する新たな研究の視座を開拓し、国内外で研究の成果を発表した。
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