この研究は、関東を中心的なフィールドとし、農本主義的身分制度が日本の農村社会をいかに規定したかを解明することを目的とする。収集した資料を分析した結果、関東農村では関西と異なり、多くの場合職人は「みなし穀物生産者」である百姓身分のまま非農業部門に従事したことが判明した。ただし、穢れに携わる僧・非人等は制度上明示的に百姓から区別された。農村住民と農業従事者を制度上分離しない近世の経験は、近代以降の農協組合運動と農村共同体の関係に大きな影響を及ぼした。また、日本と西インドの比較の視点から、穀物生産至上主義に基づく社会的分業が村落社会の構造の形成に果たした役割を明らかにし、国内外で高い評価を得た。
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