前年度までに、改良ポプラ当年生切枝を用いた室内実験系でスエヒロタケ菌の辺材における病原力を評価する方法を確立し、また、スエヒロタケ菌の病原力に遺伝的な基盤があることを示唆した。本年度は、室内実験系における病原力が野外における病原力とどの程度整合するか確認する目的で、苗畑に植栽された改良ポプラ生立木の当年生シュートに対して、前年度と同じスエヒロタケ菌株を用いた接種試験をおこなった。 接種は2016年10月4日および5日に東京大学田無演習林構内にて実施した。改良ポプラ品種Kamabuchi-1生立木7本の当年生シュート計28本に各6点の接種点を設け、スエヒロタケ27菌株および対照(無菌)をランダムに割り付けた。接種方法は、室内実験と同様に、シュートにドリルで穴を空けて菌糸の蔓延した妻楊枝を挿入する方法を用いた。接種の7週後にシュートを伐採して接種点付近を割材し、柾目断面の軸方向の変色長を病原力の指標として記録した。 接種点付近の柾目断面には褐変が観察され、その形状は室内実験と同様であった。シュート間差をランダム効果として組み込んだ一般線形化混合モデルを用いた解析において、シュートが太いほど、また接種点がシュートの下位であるほど軸方向の変色長が長くなること、変色長には菌株間差があることが示された。これらの結果は室内実験系で得られたものと一致する。しかしながら、室内実験系で評価された親菌株の病原力の強弱と、本年度の野外試験で用いたそれらの子菌株の病原力の強弱との間に有意な相関を見出すことはできなかった。以上の結果から、変色長を指標として病原力を評価する際には、接種するシュートの太さや接種部位、シュートの個体性の影響を統計学的に除去することがばらつきの低減に有効であると確かめられた。それでもなお病原力の評価値にばらつきが大きいという問題点は残されたが、病原力の評価法が確立できた。
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