規制法執行過程の核は,規制者である行政機関(地方自治体)と,被規制者である企業・事業者との,相互作用である.とくに,新しく制定された法規定の運用が始まった直後は先例の蓄積も乏しく,何が適切な法適用判断なのかについて,関係者間で共有された理解がいまだ確立しておらず,従って法の具体的意味のあいまいさが高い.これは被規制者たる企業の視点からみると,法適用についての行政の判断に交渉の余地があるということに他ならない. 本研究は,上記被規制者との間の交渉・紛争の潜在性を背景として,行政組織間で行われる様々な過程が,規制の現場における法執行の在り方とどのように関係しているのかについて,理論と実証の双方からアプローチした.アメリカを中心に発展してきた規制研究,第一線行政職員研究,制度論研究に依拠しつつ,改正水質汚濁防止法及び土壌汚染対策法に焦点を当てた.規制現場の担当者,被規制者たる企業へのインデプス・インタビュー,全国の規制部局に対する郵送質問票調査という質的・量的双方より経験的調査を実施し,そこでの相互作用パターンが環境規制の執行にどのような影響を与えているかを明らかにした.本研究は,規制現場の担当者が執行上必要となる法の解釈適用の判断において,他県等の規制担当部署と連絡を取り合うという戦略を採用していること見出し,そのような部署間のネットワークのパタンの違いが,制定法解釈において異なる意味付けを進化させるダイナミクスを明らかにした.そして,規制部署がそのような部署間ネットワークを形成する際の動機付けを解明した.本研究はその結論部分において,規制法の執行を理解するための理論を提示するのみならず,より広く,法の意味が現場というローカルなレヴェルでどのように構築されてゆくかについて,特に自治体間ネットワークという部署間でのやりとりに着目した理論的枠組みを構築した.
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