研究課題
これまでに、麻疹ウイルス(MV)のワクチン株を利用して高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)抗原タンパク質発現組換えMVを作出し、これをカニクイザルに予め投与しておくことでHPAIV攻撃感染後の発症防御効果が見られることを示唆してきた。この時に用いたカニクイザルは麻疹抗体を持たない個体であった。一方、MVについてはワクチン接種率が高く、麻疹抗体を保有する人が多い。そこで、麻疹ワクチン接種経験のある個体に対しても、本HPAIV抗原発現組換えMVがワクチン効果を発揮しうるかを検討した。まず、カニクイザルにMVワクチン株を接種し、ELISA法により麻疹抗体価が上昇したことを認めた。その後、本HPAIV抗原発現組換えMVを接種した結果、麻疹抗体価が再上昇するとともに、HPAIV抗原に対する抗体価も上昇した。その際のHPAIV抗原に対する抗体価は、麻疹抗体を持たないカニクイザルを用いて行ったHPAIV攻撃感染実験において発症防御効果が認められた際と同等であった。したがって、本HPAIV抗原発現組換えMVは、麻疹抗体を保有する個体に対しても、HPAIV感染後の発症防御に寄与すると考えられる。次に、MVワクチン株よりもさらに免疫誘導能が高いと考えられるMV野外株に由来する弱毒変異株を用いてHPAIV抗原発現組換えMVを作出した。これについても、カニクイザルのHPAIV感染モデルを用いてワクチン効果を検討した結果、MVワクチン株と同等以上の防御効果を有することが判った。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、麻疹ウイルスをベクターとして高病原性鳥インフルエンザウイルス抗原を発現する組換え麻疹ウイルスを2種類作出し、カニクイザルの感染モデルを用いてワクチンとしての効果を検討した。その結果、いずれのワクチン候補についても麻疹ウイルスおよび高病原性鳥インフルエンザ抗原に対する抗体産生を誘導した。また、高病原性鳥インフルエンザウイルス感染後の臨床症状、病理所見、ウイルス排出、などの複数の指標を用いて検討した結果、いずれのワクチン候補についても、高病原性鳥インフルエンザウイルス発症後の症状を抑制する効果を有することが明らかとなった。したがって、これらの組換え麻疹ウイルスは、麻疹ウイルスと高病原性鳥インフルエンザウイルスに対する二価ワクチンの候補として有望である。また、1つのワクチン候補については、麻疹抗体を保有するカニクイザルにおいてもワクチン効果を発揮しうることが示唆された。したがって、麻疹ワクチン接種後、あるいは麻疹ウイルスの自然感染後の人に対しても効果を発揮しうると期待される。
本高病原性鳥インフルエンザウイルス抗原タンパク質発現組換え麻疹ウイルスによる高病原性鳥インフルエンザウイルスに対する発症防御のメカニズムについて、より詳細な解析を行う。
本研究で得られた成果について論文発表するための準備をすすめているが、当初の計画における想定以上に時間を要し、一部の実験については現在も解析を継続中であるため。
現在執筆中の論文の英文校正費および出版費等として使用する。
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