本研究では、麻疹ウイルス(MV)ベクターを利用した高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)ワクチンの防御効果を、カニクイザル感染モデルを用いて検討した。本ワクチンは、MVワクチン株およびMV野外株由来弱毒化株にHPAIVのHAタンパク質(H5 HA)遺伝子を挿入した組換えMVであり、宿主細胞への感染によってH5 HAが発現するものである。 2種のワクチンをそれぞれカニクイザルに接種した結果、H5 HAおよびMVに対する抗体価が経時的に上昇した。ワクチンを接種したカニクイザルをHPAIVで攻撃感染し、臨床症状を観察した結果、いずれのワクチンについても発熱、頻呼吸、および肺炎重症化が抑えられた。また、攻撃感染後の鼻腔拭い液由来RNAを用いてRT-PCR法を行った結果、ウイルス排出期間が短縮されていると判った。さらに、攻撃感染の8日後に感染個体から摘出した肺の病理組織学的解析行った結果、ワクチン接種個体では炎症範囲が狭い傾向があった。最終年度には2種のワクチンによる防御効果を比較するために詳細な解析を進め、病理組織学的および免疫学的にもHPAIV攻撃感染後の防御効果は2種で同等であると考えられた。以上の結果は、2種のHPAIV H5 HA 発現組換え麻疹ウイルスはいずれもHPAIV感染後の発症防御に寄与することを示唆する。 本研究ではさらに、個体が予め保有する麻疹抗体が本H5 HA発現組換えMVによるワクチン効果に及ぼす影響を検討した。まず、カニクイザルにMVワクチン株を接種し、麻疹抗体価の上昇を認めた。その後、H5 HA発現組換えMVを接種した結果、麻疹抗体価の再上昇とともに、H5 HAに対する抗体価が上昇した。その際のH5 HAに対する抗体価は、上述のHPAIV攻撃感染実験において発症防御効果が認められた個体と同等であった。したがって、本HPAIV抗原発現組換えMVは、麻疹抗体を保有する個体に対しても、HPAIV感染後の発症防御に寄与すると考えられる。
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