本研究は、実世界のサプライネットワーク構造を、全体のレジリエンスや効率性の観点と個々の企業の生存性の観点の両方から解析し、それらを両立し得る構造の設計提案の実現を目指すものである。 初年度に大規模な時系列データの収集・整理を終えることができた。2年目にはデータ解析を開始した。2年目の時点で、当初予定していた分析の手法は最適では無いことが分かってきたために、新たな解析アプローチを複数試行し、研究の方向性を再度模索した。この結果、個々の企業の生存性を考えるにあたっては、企業それぞれがもつ資源制約や既存のポートフォリオを考慮し、さらに周囲の他の企業がどのようなポートフォリオ構成をしているかを考慮した戦略立案が重要であるとの結論に至った。 この方針に従い、最終年度はさらなる解析を進めた。国際貿易のビッグデータ解析の文脈において提案された手法を拡張し、本研究ではサプライネットワークの実データに適用した。これにより、国家間の取引と企業間の取引で共通する特徴と異なる特徴が定量的に明らかになってきた。この発見は、産業のレジリエンスを考える際に、別のスケールで議論されたレジリエンスの知見をただそのまま適用することの限界を指摘し、企業間取引ならではの問題を明確化したため、重要な貢献である。 また、どのようなポートフォリオ構成をしている企業が倒産してしまうのかなど、企業生存戦略に関する示唆も導出することができた。研究成果は、複数の国際会議論文と学術論文にて発表し、また投稿中・準備中の論文もある。 よって、研究は、当初の計画とは異なる方向に進んだものの、十分な成果を生んだと言える。
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