現生のサンゴ骨格コアの水中ボーリングをおこない、水深10 mに生息するDiploria属の骨格コアを選定し、過去90年間の窒素同位体比の変動を復元した。リトルケイマン島にて採取した海藻の窒素同位体比は+1~2‰の値を示し、窒素固定産物(0~-2‰)が海水中に主に存在する無機態窒素化合物の起源であることが推定された。サンゴ骨格コアの窒素同位体比は-2.3~+8‰の間で大きく変動し、北大西洋の水温の数十年規模振動(AMO)と同調し変化していた。水温が高い時期には窒素固定量は増大するが、90年間にわたる温暖化傾向に対しては、窒素固定量が減少する傾向を示した。本結果は現在、国際誌への投稿準備中である。さらに、本研究ではイギリス領ケイマン諸島において野外調査を行い、化石サンゴ骨格を採取した。ケイマン諸島はカリブ海北西部に位置し、隆起サンゴ礁で形成され、沿岸には過去の海水面を示すサンゴ礁の段丘がみられる。本研究ではリトルケイマン島のアイロンショア層に分布するDiploria属の化石サンゴを探索し、直径が50cm以上の群体からボーリング用のエンジンドリルを用いてサンゴ骨格コアを採取した。GEOMAR海洋研究所にてウラン系列年代測定をおこなった結果、12.7~13.4万年前の更新世の酸素同位体ステージ5eの化石であることがわかった。化石サンゴ骨格試料はGEOMARにて岩石カッターで切断し、5mmの厚さにスライスし、スライスしたコアを北海道大学にて軟X線画像を撮影し、年輪と成長方向を観察した。現生の年輪幅および水温の関係をアイロンショア層に分布する化石サンゴ骨格の年輪幅に当てはめると、MIS5eは現在よりも2~3℃水温が高い環境であることが示唆された。引き続き窒素同位体比分析を継続し、温暖化が進んだ環境では、窒素固定量の変動はどのように変化するのかを明らかにする。
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