樹木の養分吸収の大部分は根に共生する外生菌根菌(以下、菌根菌)によってまかなわれているため、樹木の保全には、樹木だけでなく土壌中の菌根菌を含めた対策をとることが必要である。本研究では、樹木の保全と保護に菌根菌を活用した新たな手法を開発することを念頭に、屋久島と種子島に分布する日本固有種で、絶滅危惧種に指定されているヤクタネゴヨウを一つのモデルケースとして、「ヤクタネゴヨウ残存林分内に生息する菌根菌群種の特徴」と「ヤクタネゴヨウ実生に共生する菌根菌とその機能」の2つの実験を行った。 2つの実験ともに調査は鹿児島県の屋久島2林分(41と21地点)と種子島2林分(32と10地点)のヤクタネゴヨウ成木の周辺で5×5×10cmの土壌ブロックを採取した。 「ヤクタネゴヨウ残存林分内に生息する菌根菌群種の特徴」では、採取した土壌サンプルから樹木の根を取り出し、実体顕微鏡下で観察して菌根の形態類別を行った。各サンプルで見られたそれぞれの菌根形態タイプについて、rDNAのITS領域の塩基配列を用いて菌種の同定を行った。その結果、ヤクタネゴヨウ林分ではCenococcum geophilumやショウロ属菌、イグチ科、ベニタケ科の菌根菌が高頻度で検出された。 「ヤクタネゴヨウ実生に共生する菌根菌とその機能」では、サンプリングした土壌から根などの粗大有機物を取り除き、約3ヶ月間常温で風乾し、バイオアッセイに供した。バイオアッセイは、チューブに土壌を入れ、ヤクタネゴヨウまたはゴヨウマツ、アカマツ、スダジイの種子を植えて約半年間育苗した。その結果、ヤクタネゴヨウとゴヨウマツの菌根菌はショウロ属菌が最も優占していた。成木でも同じ菌種が優占していたことからこの菌がヤクタネゴヨウの生育に深く関与している可能性が示唆された。
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