研究課題/領域番号 |
26870180
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
尾崎 宏和 東京農工大学, 大学教育センター, 助教 (40396924)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 航空用有鉛ガソリン / 有害微量元素汚染 / 全国空港調査 / 空港屋上堆積物 / 道路脇粉塵 |
研究実績の概要 |
2014年度は、成田、羽田、関西、新千歳、丘珠、青森、大館能代、秋田、花巻、仙台、庄内、山形、福島、新潟、松本、小松、神戸、中部国際、伊丹、松山、北九州、熊本、長崎、鹿児島、宮崎の各空港で試料を採取した。そして、成田空港、羽田空港、関西空港、仙台、庄内、山形、松本の試料について重点的かつ先行的に解析を進めてきた。 成田、羽田、関西の主要3空港で採取した屋上堆積物は、Alにより規格化したエンリッチメントファクターが、すべての試料で、Zn、Cd、In、Sb、Biは40を超過する「きわめて強い汚染」に達した。3空港すべての試料でInは「強い汚染」、Cu、As、Mo、Sn、Pbは「汚染」から、「きわめて強い汚染」のレベルであった。庄内、山形、松本空港では、Cdは全試料で「きわめて強い汚染」、Cu、Zn、As、In、Sb、Bi、Pbは「汚染」から「強い汚染」と判断された。空港の屋上堆積物は、我々が過去に調査した東京都内の非空港7地点の屋上堆積物と比べ、元素濃度は明らかに高かった。屋上堆積物が1試料に限られた松本空港を除き、Li、Ni、Zn、Rb、Mo、In、Cs、Ba、Tlは5空港で共通、Mn、Ni、As、Zn、Cd、Pbは一部以外で、非空港地点よりも有意に高濃度だった(Mann-WhitneyのU検定、p<0.05)。各空港で採取した道路脇粉塵と比べると、とくに羽田空港と成田空港は、屋上堆積物で高濃度の傾向が強かった。さらに、これら元素の屋上堆積物中濃度は、各空港の1日当たり発着便数によって有意に直線回帰された(p<0.05)。 以上から、航空機運航と空港屋上堆積物における有害金属汚染との関連が示唆された。そして、汚染のレベルは空港の規模に依存するが、汚染の組成は共通しており、航空機の運航が自動車走行以上に多種の有害金属を多量に放出している可能性を示す結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度は、各空港での試料採取とその分析に重点を置いて研究を遂行した。これまでに調査を行った空港は、とくに東日本から北海道南部および近畿・九州地区の25空港に及ぶ。また、試料の採取と考察を進めてきた中で、空港ターミナルビル屋上の堆積物だけでなく、空港ビル前のバス等の乗り場における道路脇粉塵の採取すること、空港以外の地点で採取された屋上堆積物のデータを活用することを開始している。 検討の結果、成田や羽田といった大型空港で、Zn、Cd、In、Sb、Biなどの有害金属元素によるきわめて強い汚染があり、濃度と空港規模・発着便数との関係が見出されている。この成果は国際学会でも発表された。その後の試料分析も順調に進んでいる。さらに、我々が有する道路脇粉塵に関する研究実績との対比も進んでいる。上記の元素は、道路脇粉塵よりも空港ビル屋上の堆積粉塵の方が高レベルに達した。Sbは空港屋上粉塵でも濃度は高い一方で、道路脇粉塵との濃度差はみられなかった。これは、道路脇粉塵でもSbは高濃度であるためであり、ともにブレーキの難燃材に由来する可能性がある。試料のpHは、道路脇粉塵では8を越えるアルカリ性がしばしばみられたが、屋上堆積物においては7前後にとどまった。pH条件の違いは元素の挙動に影響する重要なファクターであることから、今後の研究進展において留意を続ける必要がある。 このように、本研究は、航空機運航に伴う有害金属汚染が発生している可能性を示すことに成功しつつある。一方で、これまでに蓄積した試料の分析、未調査空港での試料採取を、今後も鋭意進めていくことが求められる。また、ターミナルビル屋上だけでなく、空港周辺地域での汚染状況との関連、鉛の同位体分析を含む詳細な元素分析、鉛の排出インベントリの再構築等に関する考察は、今後の重要な課題である。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は、全国各地空港における試料採取を続行する。とくに、年度前半は北海道地域、年度の後半は中国地域と、東京農工大学の近隣に位置する調布飛行場の調査を行う。また、これら新規の地点における調査と並行して、これまでに調査を実施した空港においても必要に応じた追加調査を実施する。すなわち、屋上堆積物との比較データを提供する道路脇粉塵や周辺土壌の試料数が不足する空港や、高濃度がみられた大型空港でバス乗り場以外の周辺部での調査を適宜補完的に実施していく。 試料に含まれる元素濃度の全量分析は、引き続き、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)と原子吸光計(AAS)を用いて続行する。そして、鉛の同位体比(207Pb/206Pb、208Pb/206Pb)の分析に着手する。得られたデータは、これまでに空港屋上堆積物で特徴的な高レベルが認められているCu、Zn、Cd、In、Sb、Tl、Biと関連させて解析する。また、我々はガソリンの分析方法を基本的に確立していることから、航空用有鉛ガソリンを購入し、鉛同位体比分析を含めた元素分析を実施する。以上より、高濃度元素の発生源推定を分析化学的に実施する。 各空港の発着便数は、これまでに行った旅客便だけでなく貨物便を含む総数と、機種別のデータを調査する。発着便数に加え、航空旅客数、航空貨物量、給油量など空港の運用状況に関するデータは、汚染レベルを総合的に考察する重要な情報として利用する。 2015年度は、以上の方針で調査および分析を進めてゆき、その結果をもとに鉛等有害元素の排出インベントリの再構築に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年度の物品費購入額が、当初想定した額よりも少なかったことが、次年度使用額発生の主な理由である。具体的には、当初はICP-MSのサンプラーコーンおよびスキマーコーンを購入する予定として、480,000円を計上したが、既存の物をメンテナンスし、新規購入することなしに試料測定を進めることができたからである。また、人件費・謝金も生じなかったため、30,000円の支出が発生しなかった。消耗品、調査旅費、その他の支出に関しては、想定額と大差ないが、節約に努めたことも理由となる。一方、旅費については、タイ・バンコク市で開催されたアジア環境化学会(International Conference of Asian Environmental Chemistry)へ参加し、情報収集と成果の発表を行うなど、研究の進捗は順調である。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでに蓄積してきた試料の元素分析を本格化させるため、そのための支出を増加させる。とくに、試料前処理のための酸試薬と誘導結合プラズマ質量分析に用いるアルゴンガスの消費量は削減できない。さらに、新規に検討段階から開始する鉛同位体比の分析、航空用有鉛ガソリンの購入と元素分析のための、消耗品や備品への支出を行う。各地空港の調査と試料の採取は、遠方や島嶼など必ずしも効率的には訪問できない地域を、昨年度よりも多く実施する。年度前半は北海道地域、年度の後半は中国地域の調査を行うほか、東京農工大学の近隣に位置する調布飛行場でも調査を行う。これらの空港は、すでに調査を行ってきた空港よりも比較的小規模であり、小型プロペラ機の発着が比較的多い。航空用有鉛ガソリンの購入と、これら空港で調査により、航空機運航による有害金属汚染の関係を明らかとする。
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