研究課題/領域番号 |
26870184
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
三宮 工 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 講師 (60610152)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / ナノホール / 液体セル |
研究実績の概要 |
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた、液中その場観察手法は近年注目を集めている。TEMによる液中その場観察では、試料付近のみ液体に浸し、電子線の光路は真空に保ち、電子線が液体を通過する距離を減らすことが必要となる。このような「液体セル」では電子線散乱を抑えるため、液厚をきわめて薄くする必要がある。本研究では、我々の開発した極薄自立ナノ多孔膜を応用し、液体をナノ孔中に閉じ込め、電子顕微鏡観察可能な液体セル「ナノキュベット」を提案する。電子線散乱を最小限に抑えるため、窓膜には極薄非晶質炭素膜を用いる。本研究のナノキュベット作製は、パラレルプロセスであるため、電子線リソグラフィーや、FIBとは異なり、ナノ構造を大量生産することができる。また、壁面材料を任意に選ぶことができるため、材料選択的に壁面に吸着した分子断面を容易に観察することが可能となる。 26年度は、ナノキュベットの作製方法を確立した。セラミック材料(カーボン、窒化アルミ)、金属材料(金)を用いたナノキュベットの作製に成功し、TEM観察により水がキュベット内に閉じ込められていることを確認した。その場観察では、加速電子線の影響により、水を介した化学反応が進行していることが確認された。加速電圧が高い(300kV)場合、水と炭素が反応し、窓膜が破壊されてしまった。観察条件の最適化により水分解に伴う反応を抑えることも可能であった。 また、本ナノキュベット作製手法を応用し、TEM用カーボン位相板の作製にも成功した。位相板を用いたTEM位相差法は、今後の分子や軽元素材料の観察に応用することが可能である。 本年度までにナノキュベット作製手法は確立され、観察方法の最適化を行うことができたため、次年度以降は、その場観察をメインに吸着分子測定や、プラズモンの応用等を行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画通り、本年度までにナノキュベット作製方法を確立することができ、カーボン、窒化アルミ、金など様々な材料を用いたナノキュベットの作製に成功した。ナノキュベットの全厚はカーボン窓膜を含め、40nm程度、液厚は20nmであり、このように薄い液体セルを制御された形で作製された例はない。(偶発的な例は報告されている)作製された試料は、実際に電子顕微鏡観察を行い、液体をキュベット内に閉じ込められることを確認した。電子線による化学反応は過去の研究でも報告されており、液体が内包されていることの証拠でもある。ただし、この電子線による化学反応は、200kVや300kVの高加速の場合カーボン窓膜まで破壊してしまった。しかし、加速電圧を100kVまで落とし、電子ドーズ量、観察範囲(絞りサイズ)を最適化することで、カーボン窓膜の破壊を抑制できることが分かった。 さらに、ナノキュベット作製手法を応用し、TEM用位相板開発に成功している。TEM位相差顕微鏡法は、通常のTEMではコントラストが得られにくい軽元素からなる大きな組織(数nm以上)や分子のコントラストを飛躍的にあげることができる。作製された位相板を用いた像の位相コントラスト伝達関数を測定し、位相板として機能することが確認された。ここで作製された位相板は今後の分子測定でのコントラスト増強に非常に有用である。 以上から、本研究の目的どおりのTEM液中その場観察プラットフォーム開発に成功し、液中化学反応の観察を行うことができ、さらに計画にはない位相板開発も行うことができたため、研究は計画以上に進んでいると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
ナノキュベットの作製手法は確立できたため、今後は主に①「分子測定応用とその最適化」、②「新機能性の追加」を行う。 ①では、液中吸着分子に注目する。吸着分子密度を制御、あるいは壁面材料に選択的に吸着する分子を選定し、分子が壁面に吸着した状態の断面観察を行う。たとえばチオールで終端した分子は選択的に金や銀に吸着し強固に結合するため今回の断面観察に適している。それぞれ、観察対象により測定条件の最適化が必要となると考えられる。さらにタンパク質、DNAなど生体分子試料の観察も検討する。 ②では、表面プラズモンを用いた新機能を追加する。ナノキュベット材料に金属膜を用いた場合、金属膜の表面プラズモンが配列したキュベット構造により干渉し、表面プラズモン共鳴を発現する。この表面プラズモンを応用し、光学的に水内包を確認するための機能を追加する。カーボン窓膜と水は屈折率が高いために、カーボン膜が密着し水が内包されると表面プラズモン共鳴ピークがシフトする。これをモニタすることで、破壊的測定であるTEM観察前に水内包の確認ができるようになる。これは実用上きわめて有用なセンシング機能である。この表面プラズモンセンシング機能は分子吸着の光学的な確認にも応用可能である。 さらに、これら①と②の発展として、①では収差補正装置を用いた分子・液体の高分解能観察や位相板を含む観察手法測定の開発、②ではカソードルミネセンスを用いた表面プラズモンの分布測定を行い機能追加の検討を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった製膜装置や部品が当初予定よりも中古等で安価で手に入り、また小型分光機の購入を別予算にしたため予算の一部を繰越し、27年度の電子顕微鏡整備に当てることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
26年度引き継いだ透過電子顕微鏡の改造・修理・メンテナンスのため、一部を人件費に充てる予定である。メンテナンスを業者に依頼するよりも安価であるため非常勤・謝金による雇用による支出とする。
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