今年度は、昨年度までに得られたマルテンサイト相の単結晶において様々な方位で塑性変形を加えたのち、変形後の試料を用いて詳細な組織観察(光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡)を行った。その結果、母相の<100>b(=マルテンサイト相の<100>o)の周辺を圧縮軸とする試料で圧縮変形を行った際に、斜方晶マルテンサイトではこれまでに報告されたことが無い、新たなすべり系と変形双晶が活動することを見出した。 新たに発見したすべり系のすべり方向(// バーガースベクトル)は<101>oであり、この方向はマルテンサイト形成時に導入される底面の原子シャッフリングと直行する。変形後の試料について透過型電子顕微鏡による内部組織観察を行ったところ、この転位は2本の部分転位と面欠陥に分解していることがわかった。 本研究において、マルテンサイト相にて観察されたすべり系と変形双晶は、いずれも母相において活動することがこれまでに報告されているすべり系(<111>bすべり)及び変形双晶({332}b双晶)とよく一致していた。本研究で用いたβチタン合金のマルテンサイト相における塑性変形挙動は、母相における塑性変形挙動を引き継いだものであると考えられる。 一方で、本研究において新たに見出された、<101>o転位はマルテンサイト相における底面の原子シャッフリングと密接に関係していることが予想される。このことは<101>o転位がβチタン合金の形状記憶特性において重要な役割を演じていることを示唆しており、今後の更なる研究とそれによる特性改善が期待される。
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