研究課題/領域番号 |
26870197
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
劉 楠 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, リサーチフェロー (00713744)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 父子関係 / 階層の世代間伝達 / 父親 / 社会階層 / 子どもの教育達成 / 生活状況 / 中国山西省 / 都市農村の地域格差 |
研究実績の概要 |
中国では、社会階層の格差を背景に、大学進学か就職かという進路選択は、子ども自身の意思によるものだけではなく、父親の社会階層(収入・学歴・職業威信)に大きく左右されている(陸,2002)。中国特有の指標として都市戸籍・農村戸籍の「戸籍の種類」、共産党員であるかどうかという「政治的立場」も社会階層に影響を及ぼすと考えられる。そこで本研究では、父親の社会階層が子どもに伝達するのか、伝達するとすればそのプロセスを明らかにすることを目的とする。具体的には、父親の社会階層によって「子どもへの経済的・情緒的支援」、「家庭の文化環境」、「親自身の子どもへの期待」に差異があるのか、その結果、「子どもの社会適応」、「進路選択」にどのような影響が生じるのかを明らかにする。 これまで博士論文では量的データから山西省の父親は家庭教育における子どもへの教育を重視することを明らかにし、「晋商」の教育重視の伝統を継承していることを考察した。よって、追跡調査の一環である本調査も山西省の家族に限定して調査を行う(インタビュー調査とその後の質問紙調査を含む)。 平成26年度、インタビュー調査のデータを集めて分析すると同時に、文献研究を行なった。本研究で明らかになった主な知見としては、父親たちは子どもの進学や就職を円滑にできるように自分の人脈を利活用する傾向が見られた。人的資本は父親の社会階層と密接に関連すると考えられる。学術面においては、本研究では中国社会の階層格差の実状を明らかにし、中国の親子関係と社会階層に関する大きな示唆につながることに意義がある。 産前産後の休暇又は育児休業の取得などに伴い補助事業を当該年度1年間中断した。その期間は、平成26年8月12日~平成27年8月31日である。事由としては平成26年10月出産したためである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究の当初の計画は、平成26年度の前半に、インタビューデータを集めて分析すると同時に、文献研究、質問紙調査への準備(調査票枠組みの作成、サンプリングの検討、調査票の作成、プレ調査の実施など)を行なうこと、26年度の後半には、質問紙調査を行うこと、27年度に質問紙調査のデータを分析し、総括として報告書を作成することであった。 26年度の前半にインタビュー調査の実施、データを収集した。研究代表者の10月の出産により、26年8月12日~平成27年8月31日の1年間、育児休業し、研究の再開は27年度9月1日の見込みである。よって、本研究は全体的に、1年間遅れている。 育児休業を取得しているとはいえ、最大の努力で分析に取り組み、積極的な研究結果の発信を研究代表者、研究支援者が分担して行った。国内の学会においては、日中社会学会で学会報告を行った。また、国際的な発信としては、横浜で行われた世界社会学会と、北海道大学で行われた応用倫理国際会議における発表報告があげられる。これらの報告では多くの聴衆者から建設的な意見をいただいた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、以下のように研究を推進する。 平成26年度収集したインタビューデータから得られた知見をまとめ、学会報告や学会誌の投稿論文の執筆をし、積極的に発信していく予定である。さらに理論や文献研究を行ったうえ、質問紙調査票を作成する。27年度4月~7月調査票を作成し、さらにプレテストを行う。そのうえ、10月~12月にインターネットを通じて高校2年生だった対象者(746名)に追跡調査を実施し、高校卒業した子どもの現職(或は、大学進学した子どもは大学生活)の状況と、父親の社会階層や現在子どもへの社会的支援を明らかにする。その後、アンケート調査のデータ入力やクリーニングを行う。 27年度の追跡調査では、5年前の連絡先の記録がある746名強の高校生とその父親を対象に、インターネットでアンケート調査を行う予定である。インターネットで調査を行う理由としては、対象者は大学進学または仕事関係で居住地の変動があると考えられるが、ネット調査では生活空間を縛らず、利便性があるというメリットがある。一方で、ネット調査のデメリットとしては、対象者の属性と本人が回答しているか信憑性が欠ける可能性があり、デメリットの解消の可否が本研究のカギとなると考えられる。そこで、連絡の取れる400名強の高校生とその父親のみを対象とし、また、事前に対象者本人とアポイントメントを取った上で調査を行う等の配慮をし、信憑性の高い調査を行うことを目指したい。また、とくに倫理的な配慮を要するため、これに充分に配慮して慎重に行うこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
産前産後の休暇等の取得により補助事業を中断したため。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度は高校2年生だった対象者に追跡質問紙調査を実施し、高校卒業した子どもの現職(或は、大学進学した子どもは大学生活)の状況と、父親の社会階層や現在子どもへの社会的支援を明らかにする。経費は、追跡質問紙調査の費用、関連図書費、学会で報告する時の交通費、消耗品等に充てる予定。
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