舌は,発話・味覚に加えて,咀嚼・嚥下・呼吸などにも重要な働きを示す.これら活動の中で,嚥下は気道防御反射という観点から重要な機能であり,近年高齢者で増加している誤嚥性肺炎と嚥下機能低下との関連性も報告されていることから,高い注目を集めている.本研究の目的は,嚥下運動における舌の役割を検討することである.7週齢のSD系雄性ラットの左側舌骨上筋および左側甲状舌骨筋に係留したワイヤー電極より導出した筋活動電位から嚥下を同定した.さらにカテーテルを経口的に頸部食道まで挿入し,中咽頭(口蓋垂後方),上部食道括約部,頸部食道の3部位から嚥下圧を記録した.喉頭に切開を加え,フォンフライ式フィラメントを用いて披裂間切痕に機械刺激を与えることにより,嚥下を誘発した.2回の試行における中咽頭,上部食道括約部,頸部食道それぞれの嚥下圧は高い再現性を示した.以上より,本計測法は同一個体内の嚥下圧の比較には有効であると考えられた.両側舌下神経切断後,切断前と比較して中咽頭圧は有意に低下し,上部食道括約部圧および頸部食道圧はいずれも低下する傾向を示した.また,歯科用材料による口蓋被覆は,舌下神経切断前にはいずれの部位の嚥下圧も変化させなかったのに対し,両側舌下神経切断時には被覆無しと比較して被覆有りで中咽頭圧が有意に上昇した.これらの結果より,舌下神経は嚥下時の中咽頭圧の発生に重要な役割を果たしており,舌下神経切断によって低下した嚥下圧は歯科材料による口蓋被覆により改善することが示唆された.舌接触補助床などの補綴的アプローチは食塊の口腔および咽頭移送のみならず,嚥下機能にも効果を発揮する可能性が示された.
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