研究実績の概要 |
アルツハイマー病(Alzheimer’s disease、AD)は病理学的に、神経細胞外に沈着したβアミロイド蛋白(β-amyloid、Aβ)による老人斑と、神経細胞内に蓄積したリン酸化タウ蛋白による神経原線維変化に特徴づけられる。Aβはアミロイド前駆体蛋白(amyloid precursor protein、APP)がβ-およびγ-セクレターゼによる段階的プロセッシングを受けることで産生される。AD患者の脳内におけるAβの蓄積部位は、Default Mode Network(DMN)とよばれる生理的にシナプス活動が盛んな部位に比較的一致する。Prodromal ADに位置づけられる軽度認知障害者、および無症候期の家族性ADの変異保因者においてDMNの神経活動が亢進していることが報告されている。これらの知見から、ADでは認知機能低下をきたす数年から数十年前には神経活動が亢進していると考えられる。早期AD病態における神経活動亢進がAPPのプロセッシングおよびタウ蛋白のリン酸化におよぼす影響を明らかにすることを目的に本研究課題を立案した。 興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸によりマウス神経芽細胞腫Neuro2a細胞を刺激すると、神経活動依存性に、APPがβ-セクレターゼによる切断を受けて産生されるC末断片(C-terminal fragment, CTF)の発現増加を認めた。またラット大脳皮質初代培養細胞をグルタミン酸で刺激すると、神経活動依存性に全長型APPの発現が減少し、APP-CTFは一過性に増加後、減少した。この結果から神経活動の亢進はβ切断の亢進を介してAβ産生を増加させる可能性が示唆された。研究代表者は、これまでに細胞外Aβ依存性に細胞内タウ蛋白のリン酸化が亢進することを報告しており、早期AD病態における神経活動亢進は、Aβ産生の増加を介して細胞内タウ蛋白を過剰にリン酸化する可能性が考えられた。
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