研究課題
内耳蝸牛を満たす「内リンパ液」は、常に+80 mVの高電位を示し、内リンパ液高電位が失われると難聴が惹起される。この高電位は、内・外2層の上皮層から成る「血管条」の電位・イオン濃度動態に依存する。その中で、外リンパ液に比して外層が~+10 mVであることは、内リンパ液の高電位の成立に不可欠であるが、その環境の維持機構は不明である。一般に、生体の細胞内は、静止状態で細胞外液に比べて-数mVから-数十 mVの負電位を示し、血管条の外層のように常に正値を呈するものは殆どない。そこで本研究では、この外層の基底膜の特異な電位特性が立脚するイオン輸送分子を同定し、内リンパ高電位成立との協関の解明を目的とした。この目的のため、実験的手法と理論的アプローチを用いた。まずは、「外層の~+10 mVの膜電位は、Na+透過性に立脚する」という仮説をたて、in vivo電気生理実験により検証した。生きたモルモットの蝸牛側壁に微小電極を挿入し、外層を浸す外リンパ液のイオン組成と外層膜電位の関係を解析した。外リンパ潅流液のNa+濃度を100 mMから1 mMに低下させると、外層膜電位は約-30 mVに過分極した。この結果より、外層膜電位に対して膜のNa+透過性が有意に寄与することを示す。一方、K+やCl-透過性を示す外層膜電位の変化は観察されなかった。この結果より、我々の内耳蝸牛環境シミュレーション数理モデル(NHKモデル)を用いて、外層の膜電位を~+10 mVに脱分極させる要素としてNa+電流を設定しシミュレーションを行った。その結果、生理実験と同様の事象をシミュレート可能なことを見出した。さらに、Na+透過性に寄与する分子探索のために、LC-MS/MSにより血管条膜タンパク質を網羅的に解析した。その結果、25個のイオンチャネル、79個のトランスポータを同定した。今後、これらの中から、Na+透過性に寄与する分子を探索する予定である。
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