本研究は,股関節カップの設置公差による生体活性皮膜の摩耗・はく離促進機構解明及びカップのゆるみ寿命予測法の開発を目指して研究を実施した. 1.HA 溶射皮膜の荷重変動による摩耗・はく離促進機構その場観察 擬似体液中フレッティング摩耗挙動その場観察試験槽の製作を完了した.接触面圧・界面摩擦係数・水酸アパタイト皮膜と模擬骨の密着強度について有限要素解析を用いた体系的検討を実施し,界面の摩耗量に対して模擬骨の密着強度はほとんど影響せず,また逆に模擬骨の弾性係数が高まるほど摩耗が増加すること,水酸アパタイト溶射皮膜―基材界面のはく離長さが重要な因子であることを示した. 2.股関節臼蓋カップの擬似体液中フレッティング摩耗・はく離試験 昨年度作成した股関節臼蓋カップの繰返し負荷試験装置を用いて,固定角度を変化させた場合の股関節臼蓋カップの変位挙動について実験的検討を実施した.設置公差による荷重変動に伴う固定ネジ穴縁部での局部摩耗・はく離挙動評価については,臼蓋カップの端部およびネジ穴付近での皮膜はく離が発生していることを明らかにした.一方で,試験中に顕著な摩耗粉の排出は見られなかったことから,摩耗粉の形成条件については引き続き検討が必要である. 3. 有限要素解析によるゆるみ寿命予測法の開発 有限要素解析に基づき,水酸アパタイト溶射皮膜界面のはく離長さによって変位が増大することを明らかにした.また,実験的に得られた股関節臼蓋カップの変位量は200μm程度であり,模擬骨の損傷の影響が大きく出ていることから,ゆるみが生じる寿命が想定よりも短いことが示された.今後は模擬骨の密着強度を高めた実験的取り組みを更に実施し,ゆるみ量の低減に向けた検討が必要である.
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