日本海で採取されたIODP U1425コアについて,魚歯化石/骨片化石と鉄マンガン水酸化物のネオジム同位体比の分析を過去1000万年間について行った。魚歯化石の産出にはムラがあり,産出数の少ない層準が少なからずあった。そのため,TIMSでのルーチン分析に加え,Ndを酸化物として測定する微少量での測定法(NdO+測定)も採用し,約60層準の魚歯化石/骨片化石のNd同位体比データを得た。また,魚歯化石/骨片化石と同様に,底層水のNd同位体比を記録すると考えられている水酸化物中のNd同位体比も約50層準において,分析を行った。さらに,日本海の過去1000万年間のNd同位体比データから,日本海の形成史を考える場合,太平洋深層水のNd同位体比データも必要になるため,太平洋亜熱帯域のDSDP296コアについても過去1000万年間の魚歯化石/骨片化石のNd同位体比データを分析した。太平洋亜寒帯域のNd同位体データは,マンガンクラストによる既存データを解析に用いた。これらの日本海1サイトと太平洋域2サイトの海水Nd同位体データを解析し,以下の解釈に至った。 ・10Ma頃は,太平洋の北方起源の水塊(亜寒帯域の水塊)が古日本海に流入していた。 ・10Maから4.5Maにかけて,徐々に太平洋の南方起源の水塊(亜熱帯域の水塊)が古日本海に流入した。 ・4.5Ma頃には,東北日本弧の隆起が生じ,太平洋の北方起源の水塊が日本海に流入しなくなり,Nd同位体比の低いオホーツク海由来の水塊が流入しはじめた。 ・4.5Ma以降,日本海の閉鎖性が強まったと考えられ,2Ma前後には-6eNdに達するような低い値が周期的に見られるようになった。このような低い値は,恐らく,間氷期に相当する時期に日本海固有水が形成されたことと関連していると解釈された。
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