1.効率的な生薬成分抽出法の開発 本研究では,効率的な生薬成分抽出法の開発を指向して,多成分から成る生薬抽出エキスそのものを基質とした合成反応の開発を行った.前年度までの研究では,生薬の酢酸エチル抽出エキス中の単純ケトン群を標的とする Bucherer-Bergs 反応により,四置換不斉炭素を有する複数の新規天然物様化合物を一挙に合成することができた.このとき,低極性画分中の単純ケトンが高極性化合物に変換されたため生成物の同定は容易であった.そこで本年度は,高極性成分の低極性化を指向した合成反応を試みた.その結果,生薬のメタノール抽出エキス中の高極性カルボン酸を低極性化合物へと分子変換し容易に単離することができた.これらの研究により,生薬抽出エキスを基質とした分子変換法は,新規天然物様化合物の一挙創製法としてだけでなく,生薬成分の新規同定法として利用可能であることが示唆された. 2.ヒアルロン酸分解酵素阻害剤の探索 本研究では,生薬成分中から新規ヒアルロニダーゼ阻害剤の探索研究を行った.生薬「竹節人参」及び「李根皮」より,新規阻害剤として chikusetsusaponin IV (IC50=24 μM) 及び (-)-epicatechin (IC50=804 μM) をそれぞれ同定した.次に,(1) 界面活性剤 (Triton X-100),及び (2) DMSO添加の in vitro 評価系において,これらの阻害剤とヒアルロニダーゼの分子間相互作用様式を検定した.その結果,chikusetsusaponin IV はいずれの条件下においても阻害活性が低下したことから,非特異的な分子間相互作用様式が示唆された.一方,両条件下で阻害活性が変化しなかった (-)-epicatechin は,酵素活性部位あるいはカテキン結合部位に対して特異的な阻害作用を示すことが示唆された.
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