本年度は、前年度までに投稿したが掲載に至らなかった論文の再投稿を目指た。 TET1遺伝子の発現が極度に低下している大腸がん細胞株に関する研究については、米国NIHの公共のデータベースであるThe Cancer Genome Atlas(TCGA)における臨床検体由来のDNAメチル化アレイのデータを解析することにより、同遺伝子の転写抑制と検体の病理学的な特徴とに関連性を見出すことが出来た。この検体のトランスクリプトーム解析データセットより、TET1遺伝子の発現が低下している群とそうでない群との間で著名に発現が変化している遺伝子を網羅的に解析した。この結果、発現の変動に関与すると考えられるサイトカインを含む培地で大腸がん細胞株を培養することによってTET1遺伝子のプロモーター領域のヒストン修飾にエピジェネティックな変化が起こり、転写抑制に繋がることが見出された。 がん細胞株の上皮間葉転換(EMT)の過程におけるTET1遺伝子の機能を探るためのノックダウン実験においては、TET1蛋白質が酵素活性とは無関係に上皮マーカー遺伝子の転写抑制に関与することを示唆するデータが得られた。この研究についてまとめた論文は、査読者段階で「TET1蛋白質が直接標的遺伝子に結合転写抑制に関わるのかを解析せよ」という指摘がなされ、期限内に実験が完結できないと考え投稿を撤回し、データの積み上げを行った。本年度はこの現象の解析をすすめるために、TET1抗体を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)と、次世代シークエンサーを用いたTET1蛋白質結合領域の網羅的な解析を行うことを計画していた。しかしながら、実験条件の決定に時間を要したため、結果はまだ得られていない。
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