イオンチャネルにおけるイオン透過とイオン選択性の起源を探るべく、分子動力学法(MD)を用いたシミュレーションにより、イオンの選択的透過を調べた。本研究では、次の2点について研究を行った。1) K+チャネルにおける電気生理学的測定、いわゆるpunch through法を模したMDシミューレションを行い、K+チャネルがNa+とK+をどの程度区別しているのかを調べた。2) モデルチャネルを通るイオン透過速度をMDシミュレーションによって調べ、イオンチャネルを通る電流の電位依存性が何によって決まるのかを解明した。 punch through法とは、細胞内溶液をK+とNa+の混合溶液にしておき、電位を変化させた際に流れる電流を測定する実験手法である。この時、電流ー電圧曲線は、特徴的なS字曲線を描く。この曲線を解析することで、1つのNa+の透過に伴い、いくつのK+が流れたかを測定することが出来る。過去の実験において、1つのNa+の透過に伴い、5-30個のK+が流れることが分かっている。本研究でのMDシミュレーションによる計算では、1つのNa+の透過に伴い約6個のK+が透過し、実験に近い結果を得ることができた。 モデルチャネルを通るイオン電流の電位依存性を調べた。その結果、多くのイオンチャネルで観測されるような劣線形の電流ー電圧曲線が得られる場合と、イオンチャネルでは通常観測されない優線形の曲線が得られる場合があった。この線形の違いは、イオン透過の律速段階の物理的起源に起因することを解明した。透過速度がエントロピーによって支配される場合、劣線形であった。一方、エネルギーによって支配される場合は優線形であった。この結果から、punch through法で測定されるS字曲線は、K+の電流ー電圧曲線が劣線形であり、Na+は優線形であることが推測される。
|