研究課題
2014-2015年度の結果をもとにし、日本海側(石川県)から太平洋側(静岡県)にかけてコケ植物・マツ葉を採取した。次に、各植物に含まれる多環芳香族炭化水素(PAHs:16 種類)を分析し、そのPAHs蓄積傾向と立地条件との関係を考察することで、生物指標を用いた越境大気汚染の評価について検討した。調査地で得られた植物内のPAHsを比較しところ、高山帯―都市部、および、コケーマツの間で、大きく異なる傾向が得られた。この理由として、1)植物体制の相違、2)気象条件の相違、3)越境大気汚染の影響、が考えれた。興味深いことに、高山帯のコケには、分子量の大きいPAHs(HMW PAHs)が高い濃度で蓄積され、さらに北から南に向かってPAHs濃度が下がる傾向がみられた。大陸(主に中国)由来のPAHsはHMW PAHs濃度が高いことで特徴づけられることを考慮すれば、高山帯のコケには越境由来のPAHsの影響が強く反映されていた、と考えられる。山岳域では、その気象条件から大気汚染物質の濃度が高まる傾向があり、また、HMW PAHsは強い発がん性など、生物に与える影響が大きいことも知られている。高山帯の生態系を保全するためにも、コケなどの生物指標を利用したモニタリングが重要になってくるだろう。その一方、コケ植物との体制の違いから、マツ葉には主に国内由来の分子量が小さいPAHs(LMW PAHs)が蓄積されており、ローカルな大気汚染を評価する際に有用な指標になると考えられた。以上の結果より、コケは高山帯の越境由来のPAHs汚染の指標として、マツ類は国内由来の汚染の指標として有効であり、これらの指標を組みあわて利用することで、環境・生態系の保全に重要な知見が獲られると期待される。
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