本研究は、がん細胞の免疫回避機構における分泌膜小胞の役割とその分泌メカニズムを明らかにすることを目的としている。平成26年度~27年度の研究によって、大腸癌細胞が分泌する膜小胞にはTGF-βが豊富に含まれていること、ヒトのT細胞性白血病細胞Jurkat、健常人の血中から分離した抹消血単核球(PBMC)、およびCD4+T細胞に投与すると、Smadシグナリングを活性化し、制御性T細胞 (Treg)様細胞に分化誘導すること、そしてこのTreg様細胞にはin vitroおよびin vivoにおいて腫瘍増殖促進作用があることを示した。すなわち、大腸癌細胞は膜小胞を用いて自身を攻撃してくるT細胞内のシグナルを操作し、自身にとって無害なもしくは有益な細胞へと変化させることができることがわかった。以上のデータを国際誌Oncotargetに発表した。平成28年度は、ここまでの研究成果を「第76回日本解剖学会中部支部学術集会」「第122回日本解剖学会総会・学術集会」において口演した。また、これまでの分泌膜小胞研究に基づいた総説論文を1報、および分泌膜小胞に関するCommentary論文を2報発表した。膜小胞の分泌機構に関する研究は、他の研究グループによる既発表論文を参考に、分泌機構を抑制するとされる試薬を複数購入し、大腸癌細胞に投与し、Nanoparticle tracking analysisによる小胞数の計測、標的遺伝子の抑制効果の検討を行ったが、明らかな分泌抑制および標的遺伝子抑制効果の源弱は認められなかった。細胞種によって分泌に関わる機構に多様性があるのかもしれない。もしくは、膜小胞の抽出や定量方法にGold Standardがないことが、研究グループによって結果が異なる大きな要因なのかもしれない。
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