研究課題/領域番号 |
26870245
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
松田 靖弘 静岡大学, 工学部, 助教 (40432851)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ポリ乳酸 / ゲル / 複合体結晶 / 溶媒交換 / 結晶形変化 / 結晶加速度 |
研究実績の概要 |
溶媒との複合体結晶で作製したポリ乳酸ゲルの溶媒交換によるゲルの流動温度の向上に関して主に研究した。一旦複合体結晶で作製したポリ乳酸ゲルを40度程度に加熱したポリ乳酸の溶液に再度浸漬したところ、条件によって数十度の流動温度の上昇が見られた。この原因として一旦できたポリ乳酸ゲルの網目構造の中にさらに網目構造が形成されることによる安定化と、一旦できた網目構造のポリ乳酸がより熱的に安定な結晶形に変化することによる効果の2つが考えられた。一旦できたポリ乳酸ゲルを単に加熱することによっても流動温度がかなり上昇することから熱的に安定な結晶形に変化することによる寄与が大きいことが分かった。 一旦複合体結晶で作製した後で別の溶媒に交換する際には、種々の溶媒で交換を試みた結果、ポリ乳酸との親和性が低く、沸点が低くない溶媒を用いれば、溶媒交換が可能で流動温度が高いゲルになることが分かった。ただし、溶媒交換の可否は単純にポリ乳酸との親和性だけでは決まらず、ポリ乳酸の結晶形変化をより誘起する溶媒の方が交換し易いと思われる。 複合体結晶を誘起する溶媒中での結晶化挙動をポリ乳酸とポリスチレンのブロック共重合体で調べた。光散乱測定から結晶の成長の様子が分かり、複合体結晶を誘起し易いN,N,-ジメチルホルムアミド中では結晶成長が早く、また菱餅状の大きな結晶ができることが原子間力顕微鏡、電子顕微鏡などから分かった。 ゲル化のメカニズムに関しては、これまでの研究結果をまとめると、複合体結晶によって網目構造を形成することが重要であるが、その安定化には別の結晶形に変化させることが有効だと言うことが明らかになりつつある。 これらの研究結果は既に繊維学会や高分子学会などで発表している。特に流動温度の向上に関しては、若干の追加実験の後に学術雑誌で発表すべく、準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題申請時に行った、ゲル化過程での構造変化、溶媒交換によるゲルの構造変化、作製条件によるゲル構造の変化の3つの目標のうち、溶媒交換によるゲルの構造変化およびゲル化機構の解明に関しては、既にほぼ明らかにしており、学術雑誌への論文投稿を準備中である。作製条件によるゲル構造の変化に関しても、概ね実験を終えており、今後追加の実験を行った上で学会発表や論文投稿を行う予定である。 ゲル化過程での構造変化に関しては、研究に用いる予定だった光散乱装置および電子顕微鏡の故障・不具合が続き、一応のデータは得られているものの、論文投稿に向けてさらに実験すべき状況でありながら、なかなか進められていない。両装置はゲル化過程での構造変化を知る上で不可欠であり、装置の不具合による遅れは如何ともし難かった。今後、なるべく速やかに装置の修理を行い、実験を進めたい。本課題で導入した示差屈折率計や既設の粘弾性測定装置やX線回折装置等、光散乱装置や電子顕微鏡以外の装置を用いた実験に関しては大きな障害は発生しておらず、これらを使った実験は順調に進んでいる。 研究課題全体としては学会発表も盛んに行い、学界から評価を受けている。特に本研究課題に関連して平成27年度の繊維学会奨励賞、および東海化学工業会賞を受賞しており、当該分野で注目を集められていると考える。今後、論文を学術雑誌で発表することでさらに強力に研究成果を発信する予定である。 このように、一部で予期せぬ事態によって遅れが見られる部分があるものの、全般的には順調に進展しており、特に大きな問題にはならないと考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行った実験の結果から、ゲルの流動温度の評価においては、測定時の昇温速度が重要であることが分かってきた。これは測定中にゲル中のポリ乳酸の結晶形が試料の加熱によって変化してしまうためである。このため、これまでに物性・構造の評価が済んだ試料に対して、異なる昇温速度で流動温度を決定することで、妥当な昇温速度を決定し、これまでに行ったきた測定の一部を再測定する必要がある。既に予備測定は概ね終了し、流動温度を決定して再測定を始めつつある。 装置の不具合によって研究の進展に遅れが見られた、光散乱装置および電子顕微鏡のうち、光散乱装置に関しては関連業者と連絡を取り、修理の準備を進めている。電子顕微鏡は学内の共同利用機器であるため、本研究の代表者には如何ともし難いが、既に装置の修理が進められている。いずれの装置に関しても、修理が終わり次第遅れていた測定を再開したい。万一、修理が遅れるようであれば、当初予定していた研究課題の一部を既に測定したデータを用いて解明する方向を考えている。また、電子顕微鏡を用いた実験に関しては、一部が原子間力顕微鏡を用いても可能であるため、原子間力顕微鏡の実験環境の整備を行い、電子顕微鏡の不具合が続いた場合に備える。 既に成果が出ている部分に関しては学術雑誌への投稿に向けてデータの整理等を行っており、本年度中に掲載決定されることを目指している。本年度はこれまでに得られた研究成果の取りまとめと必要な追加実験に特に力を入れていきたい。また、得られた成果の発信にも力を入れ、国際学会等で積極的に発表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として当初予定した額よりも使用額が少なくなったのは、年度途中で使用している装置(光散乱測定装置)に不具合が発生して多額の修理費用がかかりそうになったため使用を控えたためである。修理に関しては年度中に確定させることができなかったため、結果的に次年度使用額が発生した。 旅費として当初予定した額よりも使用額が少なくなったのは、本研究費で行く予定だった国際学会の旅費に対して別の助成金が得られて、本研究費から支出する必要がなくなったためである。 「その他」として学術雑誌に投稿する論文の英語校正費を考えていたが、投稿が遅れたため使用に至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
光散乱測定装置の修理方法が確定し次第、必要な額を次年度使用額となった金額から支出する。その他、使用を控えていた器具・消耗品類を購入する。 今年度も複数の国際学会の参加を予定しており、次年度使用額となった金額から旅費を支出する。 学術雑誌への投稿も予定しており、英語校正費を支出する。
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