研究実績の概要 |
過去の海洋ではMg/Ca比が大きく変動していたと言われている。先行研究において、アラゴナイト骨格を持つ現生の成体サンゴが、低Mg/Ca環境下でカルサイトの炭酸カルシウムを形成することが報告された。本課題では、通常アラゴナイト骨格を生成するサンゴがカルサイト骨格を生成した際、骨格中の元素がどのように変化するのか、温度依存性の有無について調べた。最終年度は造礁サンゴを19, 22, 25, 28℃の恒温インキュベータ内において各Mg/Ca比(5.2, 1.0, 0.5)の海水で変態させ、(2 uM Hym-248を使用)、骨格成長を促した。材料には、高知県で採取したエンタクミドリイシを用いた。生成した骨格の炭酸カルシウム結晶型をX線回折法(XRD)およびMeigen染色により確認し、アラゴナイト/カルサイトの比率も求めた。さらにレーザーアブレーション(LA)-ICP-MSを用いて、各個体の元素含有量を調べた。 前年までと同様、Mg/Ca比5.2の海水中では100%アラゴナイト、Mg/Ca比1.0および0.5でアラゴナイトとカルサイトの混合骨格およびカルサイトのみの骨格が確認された。そして、各Mg/Ca比において、温度に依存してアラゴナイト/カルサイトの割合が変化した。温度が高くなるにつれ、アラゴナイトの割合が高く、無機的に生成させた炭酸カルシウム沈殿の結果と同傾向であった。しかし、同Mg/Ca海水で無機生成されたものよりアラゴナイト含量は有意に高く、サンゴが能動的にアラゴナイトを生成している可能性を示唆した。金属元素については、Sr/Ca, Mg/Ca比などに温度依存性は見られなかったが、カルサイトとアラゴナイトで顕著な元素分別が起こることがわかった。本研究により、造礁サンゴのカルサイト骨格生成は、海水組成や温度など、物理化学的な影響を顕著に受けることが明らかとなった。
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