研究課題/領域番号 |
26870248
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
田中 柊子 静岡大学, 情報学研究科, 講師 (20635502)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 越境文学 / アイデンティティ / ローカル / 世界文学 / 翻訳 / ミラン・クンデラ / 亡命文学 / オートフィクション |
研究実績の概要 |
本研究は、作品が翻訳を通して国境を越え、世界的に読まれるグローバル化の時代に、越境作家がローカルで個人的な要素や、作家のアイデンティティ形成をどのように意識し、誰に向けて何を書いているのかを考察するものである。越境作家の多くは、外国人作家あるいは「他者」として作品を発表するため、自分の複雑な文化的・言語的背景とどう向き合い、何を表現するかという問題が浮き彫りにされる。ミラン・クンデラの試みを切り口に越境作家の企てと表現上の実践を明らかにする。本年度は「越境作家におけるローカル性の表現」をテーマにクンデラのケースを中心に扱った。前半期は、フランスのパリのチェコ文化センター、チェコの書店等で資料収集を行い、クンデラの詩集、劇作品、小説作品の初版と複数存在する改訂版を入手した。これらの資料をもとに、クンデラがフランスの新しい読者を意識して行った翻訳および原文の改訂を調査し、その成果を日本フランス語フランス文学会春季大会における口頭発表「ミラン・クンデラにおける越境とローカル性」として発表した。その内容を発展させたフランス語論文が、『フランス語フランス文学研究』第106号(日本フランス語フランス文学会刊行)に掲載された。また、フランスの読者への迎合であると批判の対象になることもあるクンデラの小説の「フランス化」に着目し、フランスという新しい環境や読者への適応が必ずしも日和見主義的なものではなく、小説の技法そのものをより進化させるための推進力として最大限活用するという積極的な企てであったことを例証し、日本スラヴ学研究会研究発表会における口頭発表「ミラン・クンデラの小説におけるフランス化」として報告した。さらにクンデラのフランス語による小説執筆を扱った論文「ミラン・クンデラにおけるエクソフォニーの実践」が『仏語仏文学研究』第47号(東京大学仏語仏文学研究会刊行)に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度は「越境作家におけるローカル性の表現」をテーマにクンデラがフランスで執筆した小説作品における「フランス化」の現象を分析し、同じく母語以外の言語で執筆したジョーゼフ・コンラッド、サミュエル・ベケット、ウラジミール・ナボコフをクンデラと対照して考察することを計画していた。クンデラとこれらの作家との比較検討は学会や学会誌等での成果発表にまでは至らなかったものの、クンデラの「フランス化」についてはフランスとチェコでの資料収集の結果、学会発表2件、論文2本と充実した成果を上げることができた。とりわけクンデラの『冗談』の初仏訳にまつわる誤訳問題が後のクンデラの自作品の翻訳に対するこだわりや、小説の創作行為そのものに大きな影響を与え、現在の「ヨーロッパの小説家」という小説家像につながっているという流れを明らかにすることができたのは、今後、越境作家の作品の「私小説」的側面や、エッセーやインタヴューを通じてのアイデンティティ形成に関する研究を続ける上で、重要な成果であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度からの継続課題として、母語以外での執筆についてクンデラと他の越境作家のケースを比較検討し、成果発表をする。並行して当初の計画に沿って「世界の読者に向けた私小説あるいはオートフィクション」をテーマに研究を行う。越境作家は、複数の国、言語、文化の間にいるという自分の立ち位置を創作の源としている。自分の人生をなぞるような自伝的作品、自分の体験に基づく物語設定、自分の分身のような登場人物など、顕著に作家の「私」が見える手法がある一方、その裏返しとして意図的に作家自身を想起させる要素を消す場合もある。パトリック・シャモワゾー、サルマン・ラシュディ、ナボコフ、また日本語で書くリービ英雄の自伝的虚構作品を検討し、越境作家が自分について文学を書く必然性、あるいは書かない必然性を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
図書や消耗品の予算であった物品費を計画通りに使用することができなかった。理由は、図書や資料を主に海外のインターネットサイトや図書館、書店を利用して収集した際、予算執行に必要となる領収書等を得られなかったり、知人による立替えに頼らざるを得ないケースがあったからである。また人件費・謝金などは、必要とする機会がなかったため使用しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
去年の反省をふまえ、できるだけ書籍購入には物品費を使用できるように注意する。また、研究テーマと関連した学会・研究会への参加費や、学会誌への投稿料を予算でまかなうようにする。海外・国内を問わず出張の際に、安全に持ち運ぶことのできる軽量で丈夫なノートPCの購入も計画している。
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