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2016 年度 実施状況報告書

越境文学における作家のアイデンティティ形成 ― ミラン・クンデラの試みを中心に

研究課題

研究課題/領域番号 26870248
研究機関静岡大学

研究代表者

田中 柊子  静岡大学, 情報学部, 准教授 (20635502)

研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2018-03-31
キーワード越境文学 / アイデンティティ / ローカル / 世界文学 / 翻訳 / ミラン・クンデラ / 亡命文学 / オートフィクション
研究実績の概要

本研究は、作品が翻訳を通して国境を越え、世界的に読まれるグローバル化の時代に、越境作家がローカルで個人的な要素や、作家のアイデンティティ形成をどのように意識し、誰に向けて何を書いているのかを考察するものである。越境作家の多くは、外国人作家あるいは「他者」として作品を発表するため、自分の複雑な文化的・言語的背景とどう向き合い、何を表現するかという問題が浮き彫りにされる。ミラン・クンデラの試みを切り口に越境作家の企てと表現上の実践を明らかにする。
本年度はローカルな要素の扱い、自伝的要素、エッセーやインタヴューでの自己説明などクンデラのケースから見えてくる様々な問題を出発点に、ウラジーミル・ナボコフ(1899-1977)、アゴタ・クリストフ(1935-2011)、リービ英雄(1950-)、パトリック・シャモワゾー(1953-)、多和田葉子(1960-)など多様な作家の越境を比較、分析した。その成果を2016年7月21日~27日にウィーン大学にて開催された国際比較文学会第21回大会で、“Le choix linguistique et l’identite des ecrivains frontaliers ― autour de la tentative de Milan Kundera ―“(越境作家の言語選択とアイデンティティ―ミラン・クンデラの試みを中心に)の題目で発表した。外国語、つまり母語ではない言語で執筆するとき、そのことは作品で扱う内容、作品のスタイルにどのような影響を及ぼすのだろうか?作家は自らのアイデンティティや自己イメージをどのように意識し、それらにどのように関わっていくのだろうか?こうした問いについて考察し、越境作家の立場やそのイメージの変化について活発な議論が行われた。研究成果をまとめた書籍の原稿執筆にも着手した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は当初の計画にあったウィーン大学での国際比較文学会の第21回大会にて無事研究発表を行うことができ、この発表を通して越境文学に対する理解を深めることができた。「越境作家の言語表現」、「越境と創造」といったテーマでストラスブール大学と提携してシンポジウムやワークショップを開催を考えていたが、こちらについてはスケジュールや会場の都合上、実現が難しいと判断した。その代わりに日本フランス語フランス文学会の秋季大会でのワークショップの開催を検討している。

今後の研究の推進方策

作家の越境や外国語執筆のコンテクストの違いが創作を含む作家活動に違いを与えていることに留意した上で、作品の地理的設定を構成するローカルなもの、つまり特定の土地や生活環境、文化に即した事柄がどのように表現されているのかを見ていきたい。ナボコフの亡命は悲劇的な状況として捉えられ、アゴタ・クリストフは生死がかかった難民の状態が作家人生の出発点にある。それに対しクンデラは、困難な状況を経ているとはいえ、移住先のフランスに既にゴンブローヴィチ(1904-1969)など東欧の亡命作家が活動していたという先例があり、さらにガリマール社の庇護を受けるなど幾分優遇された状況にあったと言える。そして、国民国家の枠組みが相当に薄れた現代、リービ英雄や多和田葉子などは外国語執筆を自発的に選択し、軽やかに越境する。そこには一切の悲劇性がない。郷愁、過去の記憶、国民文学の枠組みに対する挑戦、外国語執筆で得られるものあるいは失うもの、自らの越境状態に対する特別な意識など、どの越境作家にも程度の差こそあれ共通して見受けられる特徴が、世代ごとにどのように変化しているのかを、作品の地理的文化的要素に関わる表現を精査することで読み解いていきたい。クンデラの越境についての書籍の原稿執筆を進める他、日本フランス語フランス文学会秋季大会において「越境作家の外国語執筆とアイデンティティ」のテーマでワークショップの開催を企画している。

次年度使用額が生じた理由

産前産後休業および育児休業の取得に伴い、研究を一時的に中断し、再開後1年の期間延長を申請した。前年度に使い切ると次年度において研究を続行することが難しくなるため、意図的に次年度に未使用額をまわすことができるよう計画的に使用した。

次年度使用額の使用計画

日本フランス語フランス文学会秋季大会におけるワークショップ参加者の交通費や宿泊費、また夏期のフランスでの調査のための旅費、当研究課題に関連した書籍の出版費用に使用する予定である。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2016

すべて 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)

  • [学会発表] “Le choix linguistique et l’identite des ecrivains frontaliers ― autour de la tentative de Milan Kundera ―“(越境作家の言語選択とアイデンティティ―ミラン・クンデラの試みを中心に)2016

    • 著者名/発表者名
      Shuko TANAKA
    • 学会等名
      国際比較文学会(ICLA)
    • 発表場所
      ウィーン大学(オーストリア)
    • 年月日
      2016-07-21 – 2016-07-27
    • 国際学会

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公開日: 2018-01-16  

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