本研究は、時間制限・情動喚起といったプレッシャーによって生じる高齢者の「焦り」による認知的制御の妨害メカニズムを明らかにすることを目的としている。 本研究では、1,プレッシャー状況による情動関係が高齢者に対して有効であるかどうかその方法の検証、2.その情動関係の程度を客観的主観的な方法で評価する手法の開発、3.プレッシャー状況設定による情動喚起した上での高齢者の認知制御への影響についての検討を目的に研究の実施を計画していた。 最終年度は,タイムプレッシャー下での認知的制御の妨害メカニズムの検討を行った。昨年度までの研究において,タイムプレッシャーによる情動喚起が有効であったことから,「焦り」という情動喚起下での認知的制御の特徴について明らかにする若年者を対象とした実験研究を行った。実験では,カテゴリ分類学習課題を用いて,ルールを繰り返し学習する情動喚起下での影響を検討した。実験はWeb実験を用いて実施した。カテゴリ分類課題でのルールの学習のしやすさを3段階設定し,タイムプレッシャー有り無しの分類課題パフォーマンスへの影響を検討することとした。実験の結果,タイムプレッシャーはルールの難易度が高めではあるが床効果にはならない条件において,有意に分類学習を妨害した。この結果は,高齢者の分類学習課題の結果と同様の結果であり,タイムプレッシャーによるワーキングメモリの剥奪による制御機能の低下が妨害メカニズムである可能性を示唆した。研究2として,瞳孔径が「焦り」状況を反映可能かどうかについての実験研究を行った。若年者を対象として「焦り」場面での瞳孔の拡大・収縮の関係性を明らかにし,定量的な指標として利用可能かどうかを検討することが目的であった。予備実験の結果,課題自体の認知的資源をどれぐらい利用するのかなどの調整が難しく,ベースラインの調整を適切にする必要性が明らかになった。
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