研究課題/領域番号 |
26870260
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
久米 裕二 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (30377890)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱可塑性樹脂複合材料 / スタンピング成形 / 可視化 / その場観察 |
研究実績の概要 |
本研究は、次世代の軽量化材料として有望なFRTP(Fiber Reinforced Thermoplastic、熱可塑性樹脂複合材料)において、スタンピング成形時の樹脂および繊維の流動挙動の可視化とその場観察、プロセス因子の解明を目的としている。 初年度(H26年度)は、スタンピング成形の基礎的な知見を得るために、単純な平板成形をターゲットとし、成形の可視化とその場観察システムの構築を目指した。具体的には、透明ガラス型の設計と、その場観察システムの開発、そして、これらの設置方法や加圧方法の検討である。その場観察システムでは、デジタル画像の連続収集と、成形中の荷重やストロークデータの収集、ならびに、これらのデータの同期を行う計測機器の構築および制御プログラム開発を行った。 その結果、FRTPの平板成形中の可視化およびその場観察に成功した。ポリプロピレンとガラス連続繊維からなる複合材料を対象に成形実験を行った場合、金型から接した表面では、樹脂および繊維は固着して移動しないが、材料内部から溶融した樹脂がはみ出る様に広がって行く挙動が明らかになった。そして、初期形状が四角であっても、成形中に円形に変化していくこともわかった。これらの挙動は、ガラス繊維が複合されていないポリプロピレン単体で行った実験と似た挙動であったが、複合材料では、一部にほとんど樹脂が流動しない特異的な挙動を示すことがあった。この挙動を示した場所は、X線CTを用いた試料内部の繊維状態観察の結果、通常よりも繊維が多く絡みあった場所であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画した「ガラス型を用いた樹脂流動のその場観察システムの構築」では、ガラス型の設計と、その場観察システムの構築の二つに分けることが出来る。まず、成形の可視化のためには、一般的に使用している金型では内部が見えないため、透明な型が必要であり、耐熱性から脆性材料のガラスを型として用いる必要がある。そのため、金属と異なる型の取り扱いに苦労し、スタンピング成形時には、型の細かな欠けや、大割れなどがしばしば起きた。この課題は、問題が生じた実験条件を検証する中で、成形時の面圧が均等になるような手だてを取ることで解決できた。 その場観察システムの構築では、画像および試験機からの信号を取得する機器選定の際に、柔軟性の高いシステム構築を目指した結果、当初計画で備品購入を考えていたPXIシステムから変更し、高速な通信インターフェイスを備えたノートPCと、CCDカメラ、高速データ収集器をそれぞれ購入し、連携させることで実現すること目指した。そして、これらを連携させるプログラムを開発することで、その場観察システムとして用いることが出来た。 これら、ガラス型とその場観察システムのレイアウトや照明方法などを適宜変更させ実験を行った結果、スタンピング成形中の樹脂流動の連続的な観察に成功した。スタンピング成形における成形因子の影響解明については、初年度と次年度と継続して行う計画であるため、順調に進んでいる。 なお、申請者の所属先が11月から変更となったため、研究環境の準備に手間取ったものの、本研究の進捗状況には大きく影響を与えることなく、以上のシステムを活用し、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、初年度に構築したその場観察システムを活かして各種成形因子の解明を継続的に行う。具体的には、成形時の試料温度や型温度、試料の設置方法などである。そして、平板成形から発展させて、突起形状(リブ)の成形を試みる。この際、平板成形は1台のカメラを使った2次元の観察で十分であったが、3次元で変化する突起部の正面からや側面からの樹脂流動挙動を捕らえるためには、複数台のカメラを使った観察を行う必要がある。この際、収集条件によっては膨大なデータとなるため、これらを速やかに処理できるプログラムの開発や同期方法など、その場観察システムのブラッシュアップを継続的に行う必要がある。また、突起成形を可視化するためのガラスの透明型も、複雑な応力状態となるため破壊の危険性が増す。そのため安全に十分に配慮した設計を心がける。 また、熱可塑性樹脂複合材料の成形では樹脂の流動挙動以外にも繊維状態を明らかにする必要があり、初年度では成形後の試料の断面観察やX線CTを使った繊維状態の観察を行ってきた。ここで、樹脂と同様に繊維の連続的な流動挙動がわかると、成形条件の最適化のために得られる知見が非常に多くなる。そのため、局所的な観察になるものの、高倍率レンズを用いた繊維流動挙動の観察の可能性について検討する。そして、最終年度に目指す、X線透過下でのスタンピング成形の可能性について、治具や観察手法などの事前検討を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度(H26年)の11月に自身の転任により所属機関が変更となり,予算の移管手続きや研究環境の構築に若干の手間取ることとなった。そのため,研究計画で掲げていた内容を精査し,焦点を絞って研究を行った結果,研究状況はおおむね順調に進んだが,予算執行に遅れが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度では,初年度に十分検討出来なかった成形条件の影響や,その場観察システムのブラッシュアップ等に費用がかかる。また,破損しやすいガラス型に多めの費用がかかり,その他では、成形に必要な加熱装置や成形用の治工具,断面観察用の消耗品,CCDカメラやレンズなどに使う予定である。
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