研究課題/領域番号 |
26870262
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
塚越 啓央 名古屋大学, PhD登龍門推進室, 講師 (30594056)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 植物分子生理学 / シグナル伝達 / 塩ストレス応答 / 非モデル植物 / アイスプラント |
研究実績の概要 |
地球上の耕地面積の約1/3が塩害被害を受け、作物の生産性が著しく低下している。高塩土壌でも生育可能な耐塩性植物アイスプラントがどのように耐塩性を獲得しているかを分子レベルで明らかにすることを第一の目的としている。 平成26年度はRNAシークエンシングを用いたアイスプラント内塩応答性遺伝子のデータベースを整備し、このデータセットとシロイヌナズナの塩応答性機構とをゲノムワイドに比較し、アイスプラントがシロイヌナズナと異なり独自の遺伝子発現機構を通じて耐塩性を発揮していることを明らかにし論文として発表した(Tsukagoshi et al., 2015, PLoS One, e0118339)。このデータセットからシロイヌナズナにはホモログが存在しないが、機能ドメインを持ったいくつかの遺伝子を選抜し、クローニングを行いシロイヌナズナ中で過剰発現を行った。その結果二種の遺伝子の過剰発現株で塩応答性に変化が見られた。一つはMADS boxを持った転写因子タンパク質で、またもう一つは細胞膜に局在する新奇タンパク質であった。 また、アイスプラントの一過的形質転換を行う為に毛状根を用いた形質転換法を試したが、良好な結果を得られなかった。これに関しては、感染する際のアグロバクテリウムのホストを換える等の工夫が必要と考えられた。 アイスプラントに存在するUPB1オーソログのクローニングを完了し、現在シロイヌナズナに導入する準備を進めている。 論文発表を行ったが、予想通りアイスプラントはモデル植物シロイヌナズナとは異なる遺伝子発現制御機構を通じて耐塩性を獲得していることがわかり、我々が構築したデータベースを用いた研究は新たな耐塩性に関わるメカニズムを分子レベルで明らかにすることが可能であると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究目的である耐塩性植物が本来有する植物有用資源の利活用はモデル植物を用いていない点で挑戦的な課題である。非モデル植物を用いる点での難しさはゲノム配列が決定されていないことや形質転換体の獲得ができない等の技術的な問題が存在する。しかしながら、本研究の最初に行ったRNAシークエンシングを用いたTranscriptome解析を用いることで、遺伝子発現レベルでの情報収集は可能である。実際に平成26年度はアイスプラントのTranscriptomeデータとシロイヌナズナのTranscriptomeデータとの比較からここの植物種による塩応答性の違いを明らかにすることができた(Tsukagoshi et al., 2015, PLoS One, e0118339)。また、塩応答に関わる活性酸素関連遺伝子に関してもアイスプラントとシロイヌナズナでの応答性が真逆である物も発見するに至った。さらには我々のデータベースからアイスプラント特有の遺伝子をクローニングし、シロイヌナズナに導入したところ、いくつかの遺伝子の過剰発現により塩応答性が変化した物も獲得するに至った。以上の点から平成26年度の研究目的は達成することができたと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に得られた、シロイヌナズナ中でのアイスプラント遺伝子の過剰発現株を用いた分子生物学的解析を進める。一つの機能未知アイスプラント遺伝子はMADS様DNA結合ドメインを有するので転写制御因子として働くと考えられる。そこで、この過剰発現株を用いて、RNAシークエンシング解析やChIP解析を行うことでこの遺伝子の関わる遺伝子発現ネットワークを明らかにする。また、アイスプラントを用いたin situ hybridization法によりこの遺伝子のアイスプラント中での発現部位を明らかにする。 現在、アイスプラントの根を用いた塩処理後のタイムコース解析を進めており、この解析により、どのような遺伝子が早く塩に応答するかを明らかにし、時間的な遺伝子発現ネットワークを明らかにする。 また、シロイヌナズナUPB1遺伝子オーソログを用いた解析から、UPB1が支配する活性酸素シグナルとアイスプラントでの活性酸素シグナルの共通する点、異なる点を分子レベルで明らかにする。
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